問304-305(病態・薬物治療/実務)
28歳女性。入院中にクロルプロマジン100~450mg/日で1年以上、
オランザピン10mg/日で4週間、リスペリドン6mg/日で8週間治療を継続してきたが、
「誰かに見張られている」、「誰かに首をグルグルされる」、「思考がとられる」などの
精神病症状(幻覚妄想症状)が消失せず、難治性精神疾患と診断された。
家族の同意を得てクロザピンが導入され、投与開始から20週間、入院での治療となった。
外泊をするなど日常生活が送れる程度に症状が安定したため、
以下の処方で退院となり、外来において多職種連携のもと治療継続することになった。
退院時の血液検査や心電図などには異常所見が認められなかった。
(処方)
クロザピン錠100mg 1回2錠(1日6錠)
ビペリデン塩酸塩錠1mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
問304(病態・薬物治療)
この患者の病態と治療に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.難治性精神疾患は治療抵抗性統合失調症である。
2.中脳辺縁系におけるドパミン神経の機能が低下している。
3.糖尿病が発症した場合、速やかにクロザピンを中止する。
4.白血球数及び好中球数のモニタリングを毎回行う。
5.精神症状が悪化した場合、持効性抗精神病薬を併用する。
問304の解説
1.「〇」クロザピン(クロザリルⓇ):D2受容体遮断作用に依存しない中脳辺縁系ドパミン(D4)神経抑制による陽性症状の改善と、5-HT2A阻害による陰性症状の改善。
クロザピンは、他の抗精神病薬に抵抗性を示す、統合失調症患者にのみ使います。
2.「×」中脳辺縁系における、ドパミン神経が亢進すると、陽性症状(幻覚・妄想)がおこります。
中脳皮質系における、ドパミン神経が低下すると、陰性症状(意欲低下・感情鈍麻)がおこります。
3.「×」クロザピンは、耐糖能異常・好中球減少症・無顆粒球症の早期発見のため、クロザリルⓇ患者モニタリングサービス(CPMS:Clozaril Patient Monitoring Service)に基づいて、定期的な血液検査を行う必要があります。
糖尿病が発症した場合は、適切な対応が求められますが、速やかに中止する必要はないです。
※オランザピン(ジプレキサⓇ):MARTA(多元受容体作動性抗精神病薬)は、糖尿病患者や、糖尿病の既往歴のある患者には禁忌です。
4.「〇」上記の3を参照
5.「×」クロザピンは、原則として単剤で使用し、他の抗精神病薬とは併用しません。
持効性抗精神病薬とクロザピンの併用は、血中から消失するまでの時間がかかるので、副作用が発現した場合、速やかに対処できないので禁忌です。(※抗精神病薬を服用している患者では、原則、他の抗精神病薬を漸減し、投与を中止した後に、クロザピンの投与を行います。)
※クロルプロマジン(コントミンⓇ・ウインタミンⓇ):D2受容体遮断薬
※リスペリドン(リスパダールⓇ):SDA(5-HT2受容体遮断・D2受容体遮断薬)
※ビペリデン(アキネトンⓇ):中枢性の抗コリン作用により、相対的に脳内のドパミン作用を強めるので、抗精神病薬によるパーキンソン症状を抑える作用があります。
問304の解答:1と4
問305(実務)
退院後の治療経過観察において、薬剤師が留意すべき事項として正しいのはどれか。2つ選べ。
1.検査結果と処方内容の確認後の調剤は、クロザピン専任登録管理薬剤師が担当する。
2.心理教育や作業療法プログラムを立案する。
3.口渇、多飲、頻尿症状が発現した場合には直ちに受診するように指導する。
4.クロザピンに残薬が生じた場合は、速やかに自己廃棄するよう指導する。
5.体重減少をきたすことがあるので、セルフモニタリングできるよう指導する。
問305の解説
1.「〇」クロザリルⓇ管理薬剤師の役割の1つとして、CPMS規定に従った血液検査が実施されたことをeCPMS上で確認してから調剤します。
2.「×」薬剤師が、心理教育や作業療法プログラムを立案しなくてもいいです。
3.「〇」クロザピンは、新たに糖尿病になったり、糖尿病が悪化したりする可能性があるので、糖尿病の症状(体重減少・口喝・多飲・頻尿)が発現した場合、直ちに受診するように指導します。
4.「×」クロザリルⓇ管理薬剤師の役割の1つとして、クロザピンを中止した患者の残薬は、速やかに回収・廃棄があります。
5.「〇」クロザピンは、新たに糖尿病になったり、糖尿病が悪化したりする可能性があるので、糖尿病の症状(体重減少・口喝・多飲・頻尿)を、セルフモニタリングするよう指導します。
問305の解答:1と3と5