問302-303(実務/病態・薬物治療)
64歳女性。身長155cm、体重51kg。
うつ病の既往歴あり。胃がん腹膜播種転移(StageⅣ、HER2陰性)に対しテガフール・ギメラシル・オテラシル(80mg/m2)+シスプラチン(60mg/m2)併用療法を開始したが、3ケ月後に腫瘍の増悪を認めた。
二次治療としてパクリタキセル(80mg/m2)+ラムシルマブ(8mg/kg)併用療法を施行した。
徐々に末梢神経障害が認められ、処方1及び2の処方薬を服用していた。
末梢神経障害は落ち着いたが、がん疼痛NRS(注)8を認めたため、トラマドール口腔内崩壊錠は処方3に変更され、服用開始3日目に患者面談を行った。
(注)NRS:Numerical Rating Scale
(処方1)
トラマドール塩酸塩口腔内崩壊錠50mg 1回2錠(1日6錠)
メトクロプラミド錠5mg 1回2錠(1日6錠)
酸化マグネシウム細粒83% 1回500mg(1日1,500mg)
1日3回 朝昼夕食後 7日分
(処方2)
アミトリプチリン塩酸塩錠25mg 1回2錠(1日2錠)
ゾルピデム酒石酸塩錠5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 就寝前 7日分
(処方3)
オキシコドン徐放錠10mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 7日分
(検査値)
項目 | 面談7日前 | 面談時 |
AST(IU/L) | 11 | 9 |
ALT(IU/L) | 20 | 14 |
BUN(mg/dL) | 25.4 | 30.9 |
CCr(mL/min) | 45.1 | 35.5 |
Na(mEq/L) | 138 | 135 |
K(mEq/L) | 3.8 | 4.5 |
Cl(mEq/L) | 99 | 101 |
空腹時血糖(mg/dL) | 111 | 108 |
面談内容は以下のとおり。
患 者: 麻薬と聞いて不安だったけど、痛み止めが効いたよ。
薬剤師:痛みが落ち着いてよかったですね。食事とお通じはいかがですか。
患 者: ご飯は食べてます。お通じは、トイレの時にいきみますが、スッキリしなくて残った感じがあります。
問302(実務)
面談等の結果、薬剤師の医師への提案内容として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1.グラニセトロンの追加
2.アミトリプチリン錠を75mg/日へ増量
3.酸化マグネシウム細粒を3,000mg/日へ増量
4.ナルデメジンの追加
5.オキシコドン徐放錠の中止
問302の解説
1.「×」グラニセトロン(カイトリルⓇ):5-HT3受容体遮断による制吐薬
シスプラチンなどの抗がん剤による吐き気に対して用いられますが、設問の患者は、食事ができ、吐き気に関する記述がないので、現段階では医師に提案しなくてもよいと考えます。
2.「×」アミトリプチリン(トリプタノールⓇ):三環系抗うつ薬
脳内のノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害作用により、痛みに対する下行性抑制系を賦活するため、末梢性神経障害性疼痛に用いられます。
設問より、トラマドールからオキシコドンに変更して、痛み止めが効いているとの記載があるので、アミトリプチリンを増量しなくてもよいと考えます。
3.「×」酸化マグネシウム(マグミットⓇ):塩類下剤
酸化マグネシウムは、便の中に水を含ませることによって、便を軟化させて緩下作用を示します。
設問より、便が硬いとの訴えはなく、酸化マグネシウムを緩下剤として使用する場合、成人では1日2,000mgのため、3,000mgまで増量しなくてもよいと考えます。
4.「〇」設問より、トイレの時にいきみますが、スッキリしなくて残った感じがあると訴えているので、オピオイド(オキシコドン)の副作用による便秘を考えます。
ナルデメジン(スインプロイクⓇ):消化管に存在する、オピオイドμ受容体を遮断することにより、オピオイド誘発性便秘(OIC:Opioid-induced constipation)を改善します。
5.「×」オキシコドン(オキシコンチンⓇ):オピオイドμ受容体刺激による麻薬性鎮痛薬
設問より、トラマドールからオキシコドンに変更して、痛み止めが効いているとの記載があるので、オキシコドンを中止しなくてもよいと考えます。
NRS:患者さんが、現在の痛みを0(痛み無し)から10(最大の痛み)の11段階で、指し示す評価スケールです。
テガフール・ギメラシル・オテラシル(ティーエスワンⓇ):代謝拮抗剤
テガフール:5-FUのプロドラッグ
ギメラシル:肝臓に存在する5-FUの代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)を阻害することにより、5-FU濃度を上昇させます。
オテラシル:消化管に存在するオロテートホスホリボシルトランスフェラーゼ(OPRT)を阻害することにより、5-FUの活性代謝物による消化管障害を軽減します。
シスプラチン(ランダⓇ):白金製剤
がん細胞内のDNAと架橋構造を形成して、DNA合成を阻害します。
トラマドール(トラマールⓇ):オピオイドμ受容体刺激と、ノルアドレナリンおよびセロトニンの再取り込み阻害作用による慢性疼痛治療薬
メトクロプラミド(プリンペランⓇ):D2受容体遮断による制吐薬
ゾルピデム(マイスリーⓇ):ω1(BZD)受容体を刺激して、GABAAの抑制作用を増強する睡眠薬
問302の解答:4
問303(病態・薬物治療)
この患者の病態と治療に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.腫瘍マーカーのCEAやCA19-9の上昇が見られる。
2.予後は、グリーソン(Gleason)スコアによって評価される。
3.二次治療による横紋筋融解症に注意する。
4.重度の動脈血栓塞栓症が出現した場合、ラムシルマブを中止する。
5.二次治療が治療抵抗性となった場合には、トラスツズマブの追加を考慮する。
問303の解説
1.「〇」胃がんでは、CEA・CA19-9が上昇します。
※肝臓がん:AFP・PIVKA-Ⅱ
※前立腺がん:PSA
※乳がん:CEA・CA15-3
2.「×」グリーソン(Gleason)スコアは、前立腺がんの悪性度を判断する指標です。
3.「×」以下の2剤は、副作用で横紋筋融解症がおこる可能性は低い。
パクリタキセル(タキソールⓇ・アブラキサンⓇ):微小管阻害薬
細胞分裂に必要な微小管タンパク質の重合を促進し、微小管の安定化・過剰形成おこし、紡錘体の機能を障害させます。紡錘体の機能が障害されることにより、細胞分裂を阻害します。
ラムシルマブ(サイラムザⓇ):抗VEGFR-2モノクローナル抗体
VEGFR-2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor-2:血管内皮増殖因子受容体2)の活性化を阻害することにより、腫瘍の血管新生を阻害します。
4.「〇」ラムシルマブ(サイラムザⓇ)は、重篤な血栓塞栓症(心筋梗塞・脳血管障害など)があらわれることがあるので、異常が認められた場合には、投与を中止して、適切な処置を行います。
5.「×」トラスツズマブ(ハーセプチンⓇ)は、HER2陽性の場合に用いるので、設問の患者は、HER2陰性のため用いません。
トラスツズマブ(ハーセプチンⓇ):抗HER2モノクローナル抗体
HER2:Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)
問303の解答:1と4