問252-253
75歳男性。喫煙歴50年(1日40本程度)、血圧135/80mmHg、脈拍68拍/分、整。数日前から胸の痛みや圧迫感、息苦しさを感じるようになった。今日の明け方、胸が強く締め付けられるような発作が生じたため医療機関を受診したところ、器質的冠動脈狭窄のない冠攣縮性狭心症と診断され治療が開始された。
(処方)
ニトログリセリン舌下錠0.3mg 1回1錠(1日1錠)
胸痛発作時 7回分
ベニジピン塩酸塩錠4mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 14日分
治療開始後、発作の頻度は減ったが、軽い自覚症状が続いた。そのため、担当医は効果不十分と判定し、薬剤師と治療方針についてカンファレンスを実施した。
薬剤師が医師に提案する追加薬剤として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.一硝酸イソソルビド
2.プロプラノロール塩酸塩錠
3.カルテオロール塩酸塩錠
4.ニコランジル錠
5.シルデナフィルクエン酸塩錠
冠動脈の痙攣によって、冠動脈が一時的な狭窄を生じ、心筋の血流が悪くなる疾患です。
冠攣縮性狭心症は、夜間や早朝、朝方などの安静時に発作が起こること、非発作時の冠動脈を見ても血管の狭窄部は確認できないことが特徴です。
問252の解説
狭心症 | 労作性狭心症
(器質性狭心症) |
運動や精神興奮によって酸素不足となり、狭心症発作が起こる。(冠動脈に狭窄があり) |
安静時狭心症
(攣縮性狭心症) |
安静時(特に明け方)に、冠動脈の攣縮によって狭心症発作が起こる。(狭窄の有無に関わらず狭心症発作が起こる) |
冠攣縮性狭心症の治療に用いた、ニトロペン舌下錠とベニジピンの効果が不十分だったことから、選択肢の中から、冠動脈を広げる作用の薬を選択します。
注意点として、β遮断薬(労作性狭心症治療薬の1種)は、安静時狭心症(攣縮性狭心症)に用いると、症状を悪化させてしまうことがあるため、原則使用しません。(安静時狭心症に、β遮断薬を用いると、冠動脈のβ2刺激作用による冠血管の弛緩作用を抑制してしまうからです。)
1.「〇」一硝酸イソソルビド(アイトロール®)
生体内で一酸化窒素(NO)を放出し、cGMP量を増やすことで、血管平滑筋を弛緩させます。心臓に対する前負荷と後負荷が軽減されるため、冠血管の血流量が増大することにより、狭心症が改善されます。
2.「×」プロプラノロール(インデラル®):β受容体遮断作用(ISA-)
3.「×」カルテオロール(ミケラン®):β受容体遮断作用(ISA+)
4.「〇」ニコランジル(シグマート®)
5. 「×」シルデナフィル(レバチオ®)
肺血管平滑筋においてcGMP分解酵素であるPDE5を阻害することで、cGMP量を増加させ血管弛緩作用を示すが、硝酸薬あるいは一酸化窒素(NO)供与薬と併用すると、過度に血圧を下降させることがあるので併用しない。
問252の解答:1と4
問253(薬理)
処方薬及び前問で提案すべき追加薬物のいずれかの作用機序として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.一酸化窒素(NO)を遊離し、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化することで、血管平滑筋を弛緩させる。
2.アドレナリンβ1受容体を遮断し、サイクリックAMP(cAMP)依存性プロテインキナーゼの活性化を抑制することで、洞結節の活動電位の発生頻度を減少させる。
3.ホスオジエステラーゼⅤを阻害し、サイクリックGMP(cGMP)の分解を抑制することで、NOの作用を増強する。
4.電位依存性L型Ca2+チャネルを遮断し、細胞内へのCa2+流入を抑制することで、冠動脈平滑筋を弛緩させる。
5.ATP感受性K+チャネルを遮断し、細胞外へのK+の流出を抑制することで、血管平滑筋を弛緩させる。
1.「〇」ニトログリセリン舌下錠・一硝酸イソソルビド(アイトロール®)・ニコランジル(シグマート®)についての記載
2.「×」プロプラノロール(インデラル®)・カルテオロール(ミケラン®)についての記載
3.「×」シルデナフィル(レバチオ®)についての記載
4.「〇」ベニジピン(コニール®)についての記載
5.「×」ニコランジル(シグマート®)は、ATP感受性Kチャネルを開口させることにより、膜電位の過分極を起こし、細胞内へのCa2+の流入を抑制し血管拡張作用を示します。