問252-253(実務/薬理)
73歳女性。左前頭部が柔らかく腫張しているのを自覚し、かかりつけ医を受診した。
腫瘤性病変を指摘され、精査加療目的で紹介入院となった。
CT検査で頭蓋及び四肢に骨病変が認められた。
骨髄検査の結果、単クローン性の形質細胞が37.0%であったことから多発性骨髄腫と診断され、
以下のDLd(ダラツムマブ、レナリドミド、デキサメタゾン)療法が開始された。
DLd療法 1~2サイクルのレジメン
投与日 | 薬剤名・規格 | 投与方法 |
Day1,8,15,22 | ダラツムマブ(遺伝子組換え)点滴静注100mg/5mL | 16mg/kg点滴投与 |
Day1~21 | レナリドミドカプセル5mg | 25mg経口投与 |
Day1,2,8,9,
15,16,22,23 |
デキサメタゾン錠4mg | 20mg経口投与 |
Day24~28 | 休薬 |
問252(実務)
今回の薬物治療における薬剤管理として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.ダラツムマブの使用にあたっては、製造販売業者が策定した適性流通管理システムへの薬剤師の登録が必要である。
2.レナリドミドの使用にあたっては、製造販売業者が策定した適性管理手順に従って、調剤及び管理上の責任を担う、責任薬剤師の登録が必要である。
3.ダラツムマブを使用する前に、肝炎ウイルス感染の有無を確認する必要がある。
4.レナリドミドは、服用しやすいように脱カプセルする必要がある。
5.デキサメタゾンは、帳簿への記載が必要である。
問252の解説
1.「×」ダラツムマブ(ダラザレックスⓇ)には、製造販売業者が策定した適性流通管理システムは、ありません。
2.「〇」レナリドミド(レブラミドⓇ)は、胎児への曝露を防止するため、適正管理手順があり、処方医はRev Mateに登録し、調剤および管理上の責任を担う薬剤師は、責任薬剤師としてRev Mateに登録する必要があります。
3.「〇」ダラツムマブ(ダラザレックスⓇ)は、抗CD38モノクローナル抗体製剤で、多発性骨髄腫の腫瘍細胞表面に存在するCD38に結合して、補体依存性細胞傷害作用などにより、腫瘍の増殖を抑制します。
ダラツムマブ(ダラザレックスⓇ)の投与により、B型肝炎ウイルスの再活性化が報告されているため、使用する前に、肝炎ウイルス感染の有無を確認する必要があります。
4.「×」レナリドミド(レブラミドⓇ)は、サリドマイド誘導体で、催奇形性の副作用があるため、調剤者への曝露の観点からも、脱カプセル禁止です。
5.「×」デキサメタゾン(デカドロンⓇ)は、ステロイド剤のため、帳簿への記載は不要です。
問252の解答:2と3
問253(薬理)
治療開始後、血清カルシウム値が12mg/dLを超えたため、薬物を追加することとなった。
追加する薬物の作用機序として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.骨芽細胞の副甲状腺ホルモン受容体を遮断する。
2.副甲状腺細胞のカルシウム受容体を遮断する。
3.破骨細胞のファルネシルピロリン酸合成酵素を阻害する。
4.骨芽細胞のRANKL(NF-κB活性化受容体リガンド)の作用を阻害する。
5.小腸上皮細胞のビタミンD受容体を活性化する。
問253の解説
多発性骨髄腫は、B細胞が分化した形質細胞が、がん化して骨髄腫細胞となります。
骨髄腫細胞は、異物を攻撃する能力がない抗体(M蛋白)を作って、
腎臓などの臓器に障害をおこします。
多発性骨髄腫の症状は、RABOで覚えます。
R(Renal insufficiency):M蛋白増加による腎障害
A(Anemia):骨髄腫細胞が増加することにより、造血機能が低下することによる貧血
B(Bone leision):骨髄腫細胞が分泌する物質により、破骨細胞が活性化・骨芽細胞が抑制されることによる骨病変(骨折)・高Ca血症
(※多発性骨髄腫の骨病変では、ビスホスホネート製剤・RANKL阻害薬を用います。)
O(Others):骨髄腫細胞の増加・M蛋白増加による、感染症リスク
血清Ca値は、8.5~10ぐらいが基準値です。
1.「×」骨芽細胞上に存在する副甲状腺ホルモン(PTH)受容体に、副甲状腺ホルモン(PTH)が作用すると、骨形成が促進され、骨量が増加します。
よって、骨芽細胞の副甲状腺ホルモン受容体を遮断すると、血清Ca値が上昇します。
2.「×」副甲状腺で産生されるPTH(副甲状腺ホルモン)は、血清Ca濃度を上昇させます。(腎臓や腸管からのCa吸収促進・骨吸収促進)
副甲状腺細胞には、カルシウム受容体が存在しており、血中のCa濃度を感知しています。
血中のCa濃度が低いと、PTHは増加します。
よって、副甲状腺細胞のCa受容体を遮断すると、PTHが増加するので、血清Ca値は上昇します。
3.「〇」ビスホスホネート製剤が、破骨細胞内に取り込まれると、ファルネシルピロリン酸合成酵素を阻害するので、破骨細胞のアポトーシスが促進されます。その結果、破骨細胞が減少するので、骨吸収が抑制され、高Ca血症が改善されます。
4.「〇」デノスマブ(ランマークⓇ)は、抗RANKLモノクローナル抗体で、RANKLを阻害することで、破骨細胞による骨吸収が抑制され、骨量が増加します。その結果、高Ca血症も改善されます。
5.「×」小腸上皮細胞のビタミンD受容体が活性化されると、Caの腸管吸収が増加するので、血清Ca値が上昇します。
問253の解答:3と4