問343(実務)
61歳女性。身長165cm、体重57kg。
左上葉非小細胞肺がん(腺がん、EGFR 遺伝子変異陰性、ALK 融合遺伝子陰性、PD-L1 < 50%)で骨転移があり、Stage Ⅳ M1b 期と診断された。
初回化学療法としてシスプラチン、ドセタキセル併用療法を導入することになった。
(身体所見及び検査値)
血圧 123/75 mmHg、白血球 4,500/μL、好中球 2,800/μL、
Hb 11.5 g/dL、 血小板 28.7×104/μL、血清アルブミン3.8 g/dL、
AST 10 IU/L、 ALT 14 IU/L、血清クレアチニン 0.9 mg/dL、
血清カルシウム 10.5 mg/L、 CRP 0.4 mg/dL、心電図 異常なし
(全身状態)
パフォーマンスステータス(PS)2
(既往歴)
うっ血性心不全
この患者の化学療法を開始するにあたり、薬剤師の確認及び提案事項として適切なのはどれか。2つ選べ。
1.非ステロイド性抗炎症薬が服用されていないことの確認
2.中等度催吐性リスクの抗がん薬に対する制吐薬が処方されていることの確認
3.シスプラチンの希釈液として生理食塩液が処方されていることの確認
4.通常の輸液によるハイドレーションを変更して、経口補液との併用によるショートハイドレーション法の推
奨
5.腎障害モニタリングを投与開始後3日目より実施
問343の解説
1.「〇」シスプラチン(ランダⓇ):白金製剤
シスプラチンは、腎障害の副作用があるので、BUNやクレアチニンクリアランスなどの値に注意します。
また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、COX阻害作用により、血管拡張作用があるプロスタグランジンの産生を抑制してしまうので、糸球体血流量が減少し、腎障害をおこすことがあります。
そのため、シスプラチンにNSAIDsを追加する場合、リスクベネフィットを考え、短期的使用にとどめるか、アセトアミノフェンなどの代替薬を検討します。
2.「×」抗がん薬の催吐性リスク分類では、シスプラチンは高度に分類されています。(※オキサリプラチン(エルプラットⓇ)は、中等度)
高度の催吐性リスク抗がん薬に対する予防的制吐療法では、5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン(カイトリルⓇ)・パロノセトロン(アロキシⓇ))、NK1受容体拮抗薬(アプレピタント(イメンドⓇ)・ホスアプレピタント(プロイメンドⓇ))・デキサメタゾンなどが推奨されています。
3.「〇」シスプラチンは、塩化物イオン濃度が低いと、活性が低下してしまうため、希釈液に生理食塩液を用います。
4.「×」設問の患者は、うっ血性心不全の既往歴があるため、ショートハイドレーション法は推奨されません。
シスプラチンの腎毒性を軽減する目的で、ハイドレーション法(積極的補水)とショートハイドレーション法(少量かつ短時間の補液)があります。
参考例 | ハイドレーション | ショートハイドレーション |
補液 | 投与前1,000~2,000mLの輸液を4時間以上かけて投与
投与時、投与量に応じて500~1,000mLの生食またはブドウ糖-食塩液に混和し、2時間以上かけて点滴静注 投与終了後1,000~2,000mLの輸液を4時間以上かけて投与 |
生理食塩液を含めた補液として、合計1,600~2,500mL(4時間~4時間30分) |
経口補液 | 記載なし | 当日、シスプラチン投与終了までに1,000mL程度 |
ショートハイドレーション法の患者選定
・心機能が保持されていること(1時間あたり500mLの補液に耐えうる)
・全身状態が良好(PS:0か1)
・腎機能が十分にあること(クレアチニンクリアランス≧60mL/min)
・飲水指示に対して十分な理解力があること
パフォーマンスステータス
0 | 発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
1 | 肉体的に激しい活動は制限される。歩行可能で、軽作業は行える。 |
2 | 自分の身の周りのことは可能だが、作業はできない。 |
3 | 限られた自分の身の周りのことしかできない。 |
4 | 自分で身の回りのことができない。 |
5.「×」シスプラチンは、急性腎障害をおこすことがあるので、腎機能モニタリングを投与直後から行います。
問343の解答:1と3