問298-299
2歳女児。体重10kg。1日数回の全身強直間代性痙れんを発現し、約3ヶ月前にミオクローヌスてんかんと診断され、バルプロ酸Naシロップの投与が開始された。痙れん発作の頻度は減少したが、最近、呼びかけに応答しないなどの意識障害が頻回に見られるようになったため入院加療となった
(入院時の検査値等)
総ビリルビン 1.0mg/dL、血清アルブミン 3.2g/dL、AST 110 IU/L、
ALT 92 IU/L、γ-GTP 24 IU/L、血中アンモニア180 μg/dL、
バルプロ酸の血中トラフ濃度 60μg/mL
問298(病態・薬物治療)
この患者の血漿アンモニア濃度が基準値(12~66μg/dL)より高い値であることの原因として、最も可能性の高いのはどれか。1つ選べ。
1.ミオクロニー発作にともなう筋障害
2.ミオクロニー発作にともなう低酸素血症
3.ミオクロニー発作にともなう腎血流の減少
4.バルプロ酸による尿素サイクルの阻害
5.バルプロ酸による腸内のウレアーゼの阻害
問298の解説
バルプロ酸(デパケン®・セレニカ®):てんかん・躁病・片頭痛治療薬
バルプロ酸の作用機序は、GABAトランスアミナーゼ阻害によるGABAの分解抑制
【バルプロ酸による尿素サイクル阻害機序】
バルプロ酸と尿素サイクル
上図のように、バルプロ酸の代謝物がカルバモイルリン酸シンターゼⅠを阻害することにより、アンモニアが尿素サイクルで代謝されにくくなり、血中アンモニア濃度が上昇することがある。
1.「×」
2.「×」
3.「×」
4.「〇」
5.「×」
問298の解答:4
問299(実務)
入院後、高アンモニア血症に対してラクツロースシロップの投与が開始されたが、3日後、食欲の低下、意識レベルの低下が悪化しつつあると小児科担当の薬剤師が主治医に報告した。そこで、血液検査を実施したところ、以下のとおりであった。
総ビリルビン1.2mg/dL、血清アルブミン3.1g/dL、AST193 IU/L、
ALT132 IU/L、γ-GTP 61 IU/L、血中アンモニア243μg/dL、
バルプロ酸の血中トラフ濃度96μg/mL
担当薬剤師によるこの患児のアセスメントとして適切なのはどれか。2つ選べ。
1.意識レベルの低下は、血中アンモニアの上昇による。
2.腸内細菌によるアンモニア消費が低下している。
3.3日前と比較して、肝機能は改善している。
4.バルプロ酸Naシロップ剤の用量が不足している。
5.カルニチンが欠乏している。
1.「〇」設問より、血中のアンモニアが180→243μg/dL(基準値12~66)へ上昇していることが、意識レベルの低下に影響していると考える。
2.「×」高アンモニア血症に対して処方されたラクツロース(モニラック®)は、ヒト消化管粘膜にはラクツロースを単糖に分解する酵素がないため、消化吸収されることなく下部消化管に達し、細菌による分解をうけて有機酸(乳酸・酢酸)が産生され、腸管のpHが低下し、腸管のアンモニア吸収が抑制され、高アンモニア血症が改善される薬剤です。
3.「×」設問より、AST:110 →193 IU/L、ALT:92→132 IU/L、γ-GTP:24→ 61 IU/Lとあるので、肝機能は悪化していると考える。
4.「×」設問より、バルプロ酸の血中トラフ濃度96μg/mLのため用量が不足しているとは考えにくい。(バルプロ酸の有効血中濃度:50~100μg/mL)
5.「〇」バルプロ酸による薬剤性カルニチン欠乏症
①バルプロ酸による腎尿細管でのカルニチン再吸収阻害
②バルプロ酸によるカルニチン合成酵素阻害によるカルニチンの生合成阻害
③バルプロ酸がバルプロイルCoAとなり、カルニチンと結合して、バルプロイルカルニチンとなって尿中へ排泄される。
※カルニチンは、脂肪酸をミトコンドリア内へ取込むのに必要で、カルニチンが欠乏すると、脂肪酸のβ酸化が減少し、脂肪酸代謝が抑制され、低血糖症状を呈することがある。
特に、カルニチンの量が少ない、子供・低体重・栄養不良・筋委縮・高齢女性などには注意が必要です。