問175(薬剤)
下表には薬物の肝抽出率及び血漿タンパク結合率を示す。
これら3種の薬物の体内動態の変動に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
薬物 | 肝抽出率 | 血漿タンパク結合率 |
ニカルジピン | 0.7より大 | 0.8より大 |
フェニトイン | 0.3より小 | 0.8より大 |
テオフィリン | 0.3より小 | 0.8より小 |
1.ニカルジピンの肝クリアランスは、肝血流量による影響を受けない。
2.ニカルジピンの定常状態における非結合形薬物濃度は、肝血流量が一定であれば、血漿タンパク結合率の変動による影響を受けない。
3.フェニトインとテオフィリンの肝クリアランスは、いずれも肝固有クリアランスの変動の影響を受けやすい。
4.血漿タンパク質の減少による肝クリアランスへの影響は、フェニトインよりテオフィリンの方が大きい。
5.フェニトインとテオフィリンの定常状態における非結合形薬物濃度は、肝固有クリアランスが一定であれば、血漿タンパク結合率の変動による影響を受けない。
問175の解説
組織クリアランスをCL org、組織の血流量をQ org、血漿タンパク非結合率をfp、組織の固有クリアランスをCL intとすると、CL org=Q org×fp×CLint / Q org+fp×CL intと表せます。
従って、肝臓においては、CLh=Qh×fp×CLint,h / Qh+fp×CLint,hとなります。
1.「×」肝抽出率が0.7より大きい薬物(肝固有クリアランス:CLint,hが大きい薬物)は、Qh ≪ fp×CLint,hとなるため、CLh≒Qh×fp×CLint,h / fp×CLint,h= Qhとなります。
よって、肝抽出率が大きい薬物の肝クリアランス(CLh)は、肝血流量(Qh)に依存します。
2.「×」定常状態での平均血中薬物濃度をCss,av、バイオアベイラビリティをF、投与量をD、全身クリアランスをCLtot、投与間隔をτとすると、Css,av=F×D / CLtot×τ と表せます。
肝血流量に依存するニカルジピンの定常状態における非結合型薬物濃度(fp×C)は、
fp×Css,av=fp×F×D / CLtot×τ ≒ fp×F×D / Qh×τ となります。
よって、ニカルジピンの定常状態における非結合型薬物濃度は、肝血流量が一定であれば、血漿タンパク結合率の変動による影響を受けます。
3.「〇」肝抽出率が0.3より小さい薬物(肝固有クリアランス:CLint,hが小さい薬物)は、Qh ≫ fp×CLint,hとなるため、CLh≒Qh×fp×CLint,h / Qh = fp×CLint,h となります。
よって、肝抽出率が小さい薬物の肝クリアランス(CLh)は、肝固有クリアランス(CLint,h)に依存します。
4.「×」フェニトインとテオフィリンは、肝抽出率が0.3より小さい薬物のため、CLh≒fp×CLint,h です。
設問より、フェニトインの血漿タンパク結合率は0.8より大きく、テオフィリンの血漿タンパク結合率は0.8より小さいとあるので、フェニトインは、ほとんど、タンパク質と結合していると考えます(⇔テオフィリンは、ほとんど、タンパク質と結合していないと考えます)。
すると、血漿タンパク質の減少による、肝クリアランスへの影響は、フェニトインの方が大きいです。
5.「〇」肝抽出率が小さい薬物の肝クリアランスは、CLh≒fp×CLint,hとなります。
よって、fpとCLint,hに依存する、フェニトインとテオフィリンの定常状態における非結合型薬物濃度(fp×C)は、fp×Css,av=fp×F×D / CLtot×τ ≒ fp×F×D / fp×CLint,h×τ =F×D/CLint,h×τ となります。
よって、フェニトインとテオフィリンの定常状態における非結合型薬物濃度は、肝固有クリアランス(CLint,h)が一定であれば、血漿タンパク結合率(fp)の変動による影響を受けません。
問175の解答:3と5