問328(実務)
65歳男性。30年前の検査でB型肝炎ウイルス(HBV)陽性であったが、
症状もなく長年未治療のまま放置していた。
最近になり、倦怠感、腹部膨満感及びめまい、ふらつきが強くなり、家族に連れられて受診したところ、非代償性肝硬変と診断を受け緊急入院となった。
検査の結果、腹水が観察され血圧も高値であり、内服薬が開始されることになった。
患者は日頃より便秘を訴えており、現在、食事は可能であるが摂取量が減ってきている。
また、血中アンモニアが 198μg/dL と高値を示している。
以下が入院後の処方である。
(処方1)
アムロジピン口腔内崩壊錠5mg 1回 1錠(1日1錠)
フロセミド錠40mg 1回1錠(1日1錠)
スピロノラクトン錠25mg 1回 2錠(1日2錠)
1日1回 朝食後 3日分
(処方2)
テノホビル アラフェナミドフマル酸塩錠25mg 1回1錠(1日1錠)
1日 1回 朝食後 3日分
(処方3)
ウルソデオキシコール酸錠100mg 1回2錠(1日6錠)
1日3回 朝昼夕食後 3日分
(処方4)
酸化マグネシウム錠330mg 1回2錠(1日6錠)
ラクツロースゼリー分包12 g/包 1回 1包(1日3包)
分岐鎖アミノ酸配合経口ゼリー剤 20 g/個 1回 1個(1日3個)
1日3回 朝昼夕食後 3日分
処方に対する薬剤師のアセスメント等として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.高血圧に対してアムロジピンでコントロールが不十分な場合には、テルミサルタンの追加を提案する。
2.利尿剤による過度の脱水は、肝性昏睡(肝性脳症)を誘発する可能性があるため、利尿薬の投与量に注意が必要である。
3.今後肝機能の改善が見られない場合には、ウルソデオキシコール酸を中止し、アセチルシステインを提案する。
4.テノホビルは、投与中止により肝炎の重症化を起こすことがあるため、患者に自己判断で中止しないように指導する。
5.分岐鎖アミノ酸製剤は非代償性肝硬変の治療に必須のため、今後食事が摂取できなくなっても継続する必要がある。
問328の解説
1.「×」テルミサルタン(ミカルディスⓇ)は、胆汁中に排泄されるARBです。
非代償性肝硬変の患者なので、胆汁排泄型のテルミサルタンを提案するのは不適です。
※アムロジピン(アムロジンⓇ・ノルバスクⓇ):Ca拮抗薬
2.「〇」肝性脳症とは、肝臓で分解されるNH3が、肝機能の低下により分解されず、脳に影響を与え、昏睡状態となることです。
肝性脳症を予防するには、以下の方法があります。
①腹水や浮腫み改善のために、服用している利尿剤での脱水を防ぐ
脱水になると、血液中のNH3濃度が上昇するため、肝性脳症になりやすくなります。
※フロセミド(ラシックスⓇ):ループ利尿薬
※スピロノラクトン(アルダクトンⓇ):抗アルドステロン性利尿薬
②便秘予防
便秘になると、NH3を産生する腸内細菌が増えるので、酸化マグネシウム・ラクツロースで予防をします。
※酸化マグネシウム(マグミットⓇ):塩類下剤・制酸剤
※ラクツロース(モニラックⓇ):高NH3血症治療剤・腸管機能改善薬
ヒトの消化管粘膜には、ラクツロースを単糖に分解する酵素が存在しないため、下部消化管に達したラクツロースは、腸内細菌によって分解され、有機酸(乳糖・酢酸)となり、消化管のpHを低下させます。
そのため、腸管でのNH3吸収が抑制されるので、血中NH3濃度が低下します。
また、下部消化管に達した、ラクツロースは浸透圧作用により緩下作用も示します。
③ NH3を産生する腸内細菌を抑える。
カナマイシン(アミノグリコシド系抗生物質)を服用します。
④ NH3産生の原因となる、タンパク質の摂取を控える。
肝機能が低下すると、肝臓でアルブミン(タンパク質)の合成ができなくなり、腹水となります。
その場合、筋肉でアルブミンを合成するのですが、その際、BCAAが必要となります。
※分岐鎖アミノ酸(リーバクトⓇ:BCAA):非代償性肝硬変患者のアミノ酸インバランスを改善して、アルブミン合成を促し、低アルブミン血症を改善します。
3.「×」アセチルシステインは、アセトアミノフェン過量摂取時の解毒に用います。
ウルソデオキシコール酸 (ウルソⓇ):肝・胆・消化機能改善薬
4.「〇」B型肝炎治療薬は、投与中止により、肝機能の悪化又は肝炎の重症化を起こすことがあるので、患者が自己判断で服薬を中止しないように指導します。
テノホビル アラフェナミド (ベムリディⓇ):B型肝炎ウイルスの増殖抑制薬
生体内で、リン酸化されたテノホビルは、HBVの逆転写酵素により、ウイルスDNAに取り込まれ、HBVの複製を阻害します。
5.「×」分岐鎖アミノ酸(リーバクトⓇ)のみでは、必須アミノ酸を全て満たすことはできないので、食事摂取量が十分にも関わらず、低アルブミン血症を呈する、非代償性肝硬変患者に用います。
そのため、食事摂取量が不足している患者には、熱量およびタンパク質(アミノ酸)を含む、他の薬剤を投与します。
問328の解答:2と4