問345(実務)
47歳男性。体重62kg。
20年以上前から習慣として毎日ビール(1缶500mL)を3缶飲んでいた。
腹部膨満感、嘔吐、四肢の浮腫、左足親指の関節痛を訴えて受診したところ、アルコールの過剰摂取による肝硬変及び痛風と診断され、以下の処方1、2、3により治療中である。
治療開始から2週間目に、薬局の薬剤師が服薬状況の確認のために電話をしたところ、患者から「発熱があり、眼が充血して両下肢にじん麻疹ができている」という訴えがあった。
薬局の薬剤師は、すぐに主治医への受診を勧め、その後入院加療となった。
(入院時所見等)
Na 140 mEq/L、K 3.8 mEq/L、総ビリルビン 2.1 mg/dL、 血清アルブミン 2.8 g/dL、PT-INR 2.0、AST 78 IU/L、ALT 66 IU/L、 血小板 8×104/μL、γ-GTP 120 IU/L、アンモニア 111 ng/dL、 BUN 18 mg/dL、血清クレアチニン 1.1 mg/dL、 eGFR 42.8 mL/min/1.73m2、尿酸 8.1 mg/dL
(処方1)
フロセミド錠20mg 1回1錠(1日1錠)
スピロノラクトン錠25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 14日分
(処方2)
ウルソデオキシコール酸錠100mg 1回1錠(1日3錠)
アロプリノール錠100mg 1回 1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
(処方3)
ラクツロースゼリー分包12g/包 1回1包(1日3包)
分岐鎖アミノ酸配合経口ゼリー剤20g/個 1回1個(1日3個)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
入院精査の結果、アロプリノールによるアレルギー反応と疑われ、アロプリノールの使用は中止となった。
入院中、この患者への対応として適切でないのはどれか。1つ選べ。
1.スピロノラクトン錠をトルバプタン錠に変更
2.ベンズブロマロン錠の追加
3.フェブキソスタット錠の追加
4.ベタメタゾン点眼液の追加
5.オロパタジン塩酸塩錠の追加
問345の解説
1.「〇」肝硬変において、体液貯留(浮腫み・腹水など)は、予後に関わる重要な因子です。
設問の患者は、フロセミドとスピロノラクトンを服用していて、腹部膨満感・四肢の浮腫みなどを訴えているので、スピロノラクトンをトルバプタンに変更することは適切だと考えます。
フロセミド(ラシックスⓇ):ループ利尿薬
スピロノラクトン(アルダクトンⓇ):K保持性利尿薬(抗アルドステロン薬)
トルバプタン(サムスカⓇ):V2受容体拮抗薬で、腎臓の集合管でのバソプレシンによる水の再吸収を阻害することにより、電解質排泄を伴わない、水利尿作用を示します。
肝硬変による体液貯留の場合、水排泄のみ増加し、Na排泄は増加しないので、他の利尿薬(ループ・サイアザイド・抗アルドステロンなど)と併用して使用します。
2.「×」ベンズブロマロン(ユリノームⓇ):尿酸排泄促進薬
ベンズブロマロンは、重篤な肝障害がおこることがあるため、定期的な肝機能検査が必要で、肝障害患者には禁忌となっています。
設問の患者は、肝硬変で、入院時所見より肝機能が悪いため、ベンズブロマロンは追加しません。
3.「〇」アロプリノール(ザイロリックⓇ)・フェブキソスタット(フェブリクⓇ)は、キサンチンオキシダーゼを阻害することにより、尿酸産生を抑制します。
アレルギー反応で、アロプリノールは中止となりましたが、尿酸値 8.1 mg/dL(基準値:7.0mg/dL以下)より、アロプリノールとは構造式が違う、フェブキソスタットの追加を検討します。
4.「〇」ベタメタゾン(リンデロンⓇ):ステロイド
設問に、眼が充血とあるので、ステロイドの点眼は適切と考えます。
5.「〇」オロパタジン(アレロックⓇ):H1受容体遮断薬
設問に、両下肢に蕁麻疹とあるので、抗ヒス薬の追加は適切と考えます。
ウルソデオキシコール酸(ウルソⓇ):肝・胆・消化機能改善薬
ラクツロース(ラグノスⓇ・モニラックⓇ):高アンモニア血症治療薬
ヒトは、ラクツロースを単糖に分解する酵素が無いため、下部消化管に達したラクツロースは、細菌により分解され有機酸(乳酸・酢酸など)が産生され、pHが低下するので、NH3の吸収が抑制され、血中のNH3が低下します。
分岐鎖アミノ酸(リーバクトⓇ)
非代償性肝硬変患者の血中アミノ酸インバランスを改善して、アルブミン合成を促進させます。
問345の解答:2