問341(実務)
38歳男性。体重80kg。数年前より動悸及び息切れを自覚し、最近では歯茎からの出血や不意の鼻血などで不安になったため近医を受診した。
引き続き近医より紹介された大学病院にて骨髄穿刺を受けた。
病理検査の結果、骨髄異形成症候群と診断され、全身放射線照射に引き続き無菌病室で骨髄幹細胞移植治療を受けた。
移植後の移植片対宿主病及び真菌感染症の予防目的で以下の薬物が投与開始された。
なお、タクロリムスの血中濃度は15ng/mLを目標とされた。
(処方1)
注射用メトトレキサート15mg/m2/日 1日目
生理食塩液50mL 1本
注射用メトトレキサート10mg/m2/日 3、6、11日目
生理食塩液50mL 1本
生理食塩液にすべて溶解し、 1日1回 朝 静脈内投与
(処方2)
タクロリムス水和物注射液0.03mg/kg/日
生理食塩液100mL 1本
0.1mg/mL に調製し、シリンジポンプで24時間持続投与
(処方3)
注射用ボリコナゾール 1回400mg(1日800mg) 1日目
生理食塩液50mL 1本
注射用ボリコナゾール 1回300mg(1日600mg) 2日目以降
生理食塩液50mL 1本
生理食塩液にすべて溶解し、 1日2回 朝夕 静脈内投与
投与開始後2週間目にタクロリムス、ボリコナゾールは経口投与に変更となった。
骨髄幹細胞移植を実施した後の病棟担当薬剤師によるアセスメントとして適切なのはどれか。2つ選べ。
1.投与開始直後の発熱に備えて頓用のイブプロフェンを準備する。
2.タクロリムス水和物注射液は1mL/h の速度で投与する。
3.ボリコナゾールは血中濃度を参考に用量を調節する。
4.移植片対宿主病を疑う所見が現れた場合はシクロスポリン注射液の追加を考慮する。
5.移植片対宿主病の発症を認めなくてもタクロリムスの投与は生涯必要である。
問341の解説
1.「×」移植後の移植片対宿主病(GVHD)及び真菌感染症の予防目的で、免疫抑制薬(タクロリムス)や、抗真菌薬(ボリコナゾール)が使用されています。
免疫抑制薬を使用しているため、日和見感染症などの感染症で発熱をおこすことが考えられるので、抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬などを準備しておきます。(※イブプロフェン(ブルフェンⓇ):NSAIDs)
2.「〇」処方2より、タクロリム注射液の投与量は、0.03mg/kg/日、Bw=80kgなので、0.03mg/kg/日×80kg=2.4mg/day=0.1mg/hrとなります。
タクロリムス注射液を、0.1mg/mL に調製し、シリンジポンプで24時間持続投与とあるので、0.1mg/hr÷0.1mg/mL=1mL/hrの速度で投与します。
タクロリムス(プログラフⓇ):免疫抑制剤(カルシニューリン阻害薬)
タクロリムスがT細胞内に取り込まれると、タクロリムス結合タンパク(FKBP)と結合して、免疫の増強に必要な酵素である、カルシニューリンを阻害します。(※カルシニューリンは、活性化T細胞核内因子(NFAT)を脱リン酸化して、NFATを核内に移行させ、IL-2の産生を促進させます)
タクロリムスの免疫抑制作用機序
3.「〇」ボリコナゾールには、肝機能障害や視力障害の副作用があります。
安全性・有効性を確認するため、薬物血中濃度モニタリング(TDM)対象薬剤とされています。
ボリコナゾール(ブイフェンドⓇ):抗真菌薬
真菌の細胞膜構成成分である、エルゴステロールの生合成を阻害して抗真菌作用を示します。
4.「×」タクロリムスとシクロスポリンは、両方ともCYP3A4で代謝されるため、併用禁忌となっています。
免疫抑制療法(GVHDの予防・治療)では、タクロリムス(プログラフⓇ)orシクロスポリン(サンディミュンⓇ・ネオーラルⓇ)に、メトトレキサート(メソトレキセートⓇ:葉酸代謝拮抗薬)を併用する方法が用いられています。
5.「×」GVHDの発症がなければ、タクロリムスを徐々に減量し、点滴投与から内服薬に切り替え、再燃や悪化が無ければ、移植後6カ月程度で終了となります。
問341の解答:2と3