第109回 薬剤師国家試験問題 問290-291(慢性心不全) | 積小為大!!  健康・社会保険・労働に関すること

第109回 薬剤師国家試験問題 問290-291(慢性心不全)

薬理・病態
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79歳女性。3年前、階段を昇る時に息切れを感じるようになり受診したところ、

胸部レントゲン写真で心拡大と肺うっ血を認め、

心エコー検査等の結果、慢性心不全と診断された。

 

処方1と処方2で治療されていたが、慢性心不全の増悪により入院した。

その後、処方1を処方3へ変更し目立った副作用なく病態が安定した。

医師は検査値等を確認し、さらに処方4を退院時に追加し退院することになった。

退院時の検査値等は以下のとおりである。

 

(処方1)

エナラプリルマレイン酸塩錠5mg    1回2錠(1日2錠)

1日1回   朝食後 30日分

 

(処方2)

ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg    1回1錠(1日1錠)

1日1回  朝食後 30日分

 

エプレレノン錠25mg   1回1錠(1日1錠)

1日1回  朝食後  30日分

 

(処方3)

サクビトリルバルサルタン錠50mg    1回1錠(1日2錠)

1日2回  朝夕食後  30日分

 

(処方4)

ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠10mg   1回1錠(1日1錠)

1日1回  朝食後  30日分

 

(検査値)

血圧 110/70mmHg、心拍 60拍/分、AST 20IU/L、ALT 10IU/L、BUN 15mg/dL、血清クレアチニン 0.8mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 102mEq/L、血清NT-proBNP 1,200pg/mL、左室駆出率(LVEF)35%、空腹時血糖 102mg/dL、HbA₁c 5.8%

問290(病態・薬物治療)

この患者の病態と治療に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。

 

1.心臓の拡張不全が主体で、収縮不全はみられない。

 

2.息切れと肺うっ血は、左心不全に起因する症状である。

 

3.患者の呼吸症状が改善したので、ビソプロロールを減量すべきである。

 

4.ダパグリフロジンは、高血糖の改善を目的に追加処方されている。

 

5.血清カリウム値を定期的に測定する。

 

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問290の解説

エナラプリル(レニベース):アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

 

ビソプロロール(メインテート):β1遮断薬

 

エプレレノン(セララ):ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

ミネラルコルチコイド受容体(MR)で、アルドステロンと拮抗するので、降圧作用を示します。

(※アルドステロンは、Naの再吸収を促進するので、血圧上昇・左室肥大などの作用があります。)

 

サクビトリルバルサルタン(エンレスト):アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)

サクビトリルバルサルタンは、サクビトリルとバルサルタンに分離します。

バルサルタンは、アンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体(ARB)を阻害して降圧作用を示します。

サクビトリルは、ネプリライシン(NEP)阻害作用により、Na利尿ペプチドの作用を亢進するため、降圧作用を示します。

(※ネプリライシン:タンパク質分解酵素の1種で、Na利尿ペプチドを分解します)

(※Na利尿ペプチド:血管拡張作用・利尿作用・RAA系抑制作用・交感神経抑制作用・心肥大抑制作用・抗線維化作用・アルドステロン分泌抑制作用)

 

 

 

1.「×」検査値より、左室駆出率(LVEF)35%とあります。

左室駆出率(LVEF)とは、左心室収縮機能の1種です。(正常値が50~80%)

よって、左心室の収縮不全がみられます。

 

 

2.「〇」左心不全では、全身に血液を送る左心室に、機能低下がおこっているので、左心室よりも前の箇所(肺)に血液が溜まりやすくなります。肺に血液が溜まると、息切れ・肺うっ血といった症状がでます。

逆に右心不全では、右心室よりも前の箇所(全身)に血液が溜まりやすくなるので、全身のうっ血(下肢の浮腫み・体重増加など)となります。

 

 

3.「×」検査値より、左室駆出率(LVEF)35%とあります。

左室駆出率(LVEF)が40%未満だと、左室駆出率が低下した心不全といわれます。

そのため、呼吸症状が改善しても、ビソプロロールを減量する必要はありません。

 

 

4.「×」検査値より、空腹時血糖 102mg/dL(正常値:100mg/dL以下)、HbA₁c 5.8%(正常値:5.6%以下)とあるので、血糖値が若干高めです。

今回のダパグリフロジン(フォシーガ)は、主な目的が慢性心不全治療で、若干、血糖値も高いため、選択されたと考えます。

ダパグリフロジン(フォシーガ)の慢性心不全に対する薬理作用は、SGLT2阻害作用による、浸透圧利尿の亢進による、心保護作用です。

 

 

5.「〇」サクビトリルのネプリライシン(NEP)阻害作用により、Na利尿ペプチドの作用が亢進して、アルドステロンの分泌が抑制されるため、血清カリウム値の上昇が考えられます。

また、エプレレノン(セララ)は、ミネラルコルチコイド受容体(MR)で、アルドステロンと拮抗するため、血清カリウム値の上昇が考えられるので、定期的に血清カリウム値を測定する必要があります。

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問291(実務)

追加された処方4の薬剤を服用するにあたり、この患者自身が特に注意する副作用症状として、適切なのはどれか。2つ選べ。

 

1.ふらつき

 

2.陰部搔痒感

 

3.歯肉肥厚

 

4.喀痰

 

5.難聴

 

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問291の解説

ダパグリフロジン(フォシーガ):SGLT2阻害薬

腎臓の尿細管に存在するナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)2を阻害することにより、グルコースの再吸収を抑制して、尿中へグルコースの排泄を促進し、血糖値を下げます。

 

1.「〇」尿中へのグルコース排泄が増加するため、血糖値が低くなるので、低血糖症状(ふらつき)に注意する必要があります。

 

 

2.「〇」尿中へのグルコース排泄が増加するため、尿路感染症がおこりやすくなるので、陰部搔痒感・腎盂腎炎などに注意する必要があります。

 

 

3.「×」

 

 

4.「×」

 

 

5.「×」

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