問258-259(実務/薬理)
25歳女性。身長153cm、体重40kg。
19歳のときにクローン病と診断され、
メサラジンとアザチオプリンによる併用療法を実施していたが、
効果不十分のため1年前よりアダリムマブ(遺伝子組換え)皮下注が追加となった。
2週間前より、発熱、腹痛及び下痢があり検査目的で入院となった。
内視鏡検査の結果、症状が悪化していることが分かり、
アダリムマブが以下の処方1に変更されるとともに、処方2が追加された。
(処方1)
ウステキヌマブ(遺伝子組換え)130mg 1日1回 2バイアル
生理食塩液250mL
点滴静注 1回分
(処方2)
エレンタール配合内用剤※ 80g
1回1袋(1日3袋)朝昼夕 7日分
※成分栄養剤
問258(実務)
この患者に対する服薬指導の内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.メサラジンと処方1の薬剤との相互作用による重篤な副作用がないこと。
2.処方1の薬剤への変更後は、妊娠を気にしなくてよいこと。
3.処方1の薬剤はアダリムマブとは異なり、感染症のリスクがないこと。
4.処方2の薬剤は腸への負担が少ないこと。
5.処方2の薬剤を水や微温湯に溶解後、時間をかけずにすばやく飲み干すこと。
問258の解説
クローン病は、マクロファージや樹状細胞が炎症に関与する、TNF-αや、IL(IL-12・IL-23)を産生し、腸管に炎症がおこる疾患のことです。(免疫異常の1種)
メサラジン(ペンタサⓇ):活性酸素(過酸化水素など)消去作用により、細胞傷害を抑制します。(※炎症部位に遊走してくる好中球やマクロファージから産生される活性酸素が細胞を傷害します。)
アザチオプリン(アザニンⓇ・イムランⓇ):代謝拮抗薬(プリン合成阻害薬)
生体内で6-メルカプトプリン→チオイノシン酸と代謝され、イノシン酸と拮抗して核酸(プリンヌクレオチド)の生合成を阻害することで、免疫抑制作用を示します。
アダリムマブ(ヒュミラⓇ):抗TNF-αモノクローナル抗体なので、TNF-αと結合することにより炎症反応を抑制します。
ウステキヌマブ(ステラーラⓇ):抗IL-12/23p40モノクローナル抗体製剤
炎症に関与するIL-12とIL-23を構成する共通タンパク質であるp40に結合して、IL-12・IL-23が受容体に結合するのを阻害し、炎症反応を抑制します。
1.「〇」メサラジンとウステキヌマブの相互作用による重篤な副作用は、現在のところ知られていません。
2.「×」アダリムマブ、ウステキヌマブともに、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、使用するにあたり有益性と危険性を考慮する必要があります。
※エレンタールは、レチノール酢酸エステル(ビタミンA)を含むので、妊娠3ヶ月以内または妊娠を希望する女性へのビタミンA5,000IU/日以上の投与は禁忌となっています。
3.「×」アダリムマブは、TNF-αを、ウステキヌマブは、IL-12・IL-23を抑制するので、両薬剤とも、感染症のリスクを増大させる可能性があります。
4.「〇」エレンタールは、成分栄養剤なので、ほとんど消化する必要がなく吸収できるので、腸への負担が少ないです。
5.「×」エレンタールは、用時調製し、調製後12時間以内に飲みを終える必要がありますが、溶解後、時間をかけずにすばやく飲み干す必要はありません。
問258の解答:1と4
問259(薬理)
クローン病の症状寛解を目的とした薬物の作用機序のうち、今回までに処方されてきたのとは異なるのはどれか。2つ選べ。
1.リンパ球表面に発現するα4β7インテグリンに結合することで、リンパ球の腸管粘膜への浸潤を阻害する。
2.可溶性及び膜結合型TNF-αに特異的に結合することで、TNF-αの受容体への結合を阻害する。
3.IL-12及びIL-23のp40サブユニットに結合することで、ヘルパーT細胞の活性化を抑制する。
4.生体内でチオイノシン酸となり、イノシン酸と拮抗してプリンヌクレオチドの生合成を阻害する。
5.細胞内でグルココルチコイド受容体に結合し、核内移行して遺伝子転写を調節することで、抗炎症作用を示す。
問259の解説
1.「〇」炎症性腸疾患(クローン病など)の腸管粘膜は、リンパ球の過剰な浸潤により炎症がおこっています。
メモリーTリンパ球表面に存在するα4β7インテグリンは、消化管粘膜の血管内皮細胞表面に存在する細胞接着分子-1(MAdCAM-1)と結合すると、腸管粘膜にリンパ球を浸潤させ炎症をおこします。
ベドリズマブ(エンタイビオⓇ)は、抗α4β7インテグリンモノクローナル抗体製剤で、α4β7インテグリンと結合することで、α4β7インテグリンとMAdCAM-1の結合を阻害して、腸管粘膜へのリンパ球浸潤を抑制します。
2.「×」アダリムマブ(ヒュミラⓇ)についての記述です。
3.「×」ウステキヌマブ(ステラーラⓇ)についての記述です。
4.「×」アザチオプリン(アザニンⓇ・イムランⓇ)についての記述です。
5.「〇」ステロイドについての記述です。
問259の解答:1と5