問167-168(薬理/病態・薬物治療)
35歳男性。献血時の検査でヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体陽性となり、HIV 感染症と診断された。
問167(病態・薬物治療)
この症例に対する治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.CD4陽性リンパ球数が基準範囲内であっても、抗レトロウイルス療法が必要である。
2.抗レトロウイルス療法では、抗HIV薬の単剤で治療を開始する。
3.HIV-RNA量が減少した場合には、抗HIV薬を休薬する。
4.免疫再構築症候群は、後天性免疫不全症候群(AIDS)やHIV感染症の治療中にみられる炎症を主体とする病態である。
5.抗レトロウイルス療法を行っても、生命予後は改善しない。
問167の解説
1.「〇」HIV感染後、無症状期であっても、CD4陽性リンパ球は減少していくので、基準範囲内でも、抗レトロウイルス療法は必要です。
2.「×」レトロウイルスは変異がおこりやすいので、作用機序が違う抗HIV薬を3剤以上で治療を開始します。
3.「×」HIV-RNA量が減少しても、抗HIV薬は継続します。
4.「〇」免疫再構築症候群(IRIR)は、抗HIV治療(ART)開始後、免疫能が改善することによっておこる、強い炎症反応が主体の病態のことです。
5.「×」抗レトロウイルス療法を行うと、生命予後は改善します。
問167の解答:1と4
問168(薬理)
HIV感染症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.エムトリシタビンは、HIV 感染細胞内でリン酸化されて活性体となり、HIVのRNA依存性DNAポリメラーゼを阻害する。
2.マラビロクは、RNA依存性DNAポリメラーゼの活性中心近傍に結合して、酵素活性を阻害する。
3.ラルテグラビルは、HIVインテグラーゼを阻害して、ウイルスDNAの宿主DNAへの組込みを抑制する。
4.アバカビルは、HIVプロテアーゼを阻害して、ウイルスタンパク質の産生を抑制する。
5.エファビレンツは、宿主の細胞膜上の C-Cケモカイン受容体 5(CCR5)に結合して、HIVの細胞内への侵入を抑制する。
問168の解説
HIVが増殖するには、逆転写酵素・インテグラーゼ・プロテアーゼ(ダルナビル:プリジスタⓇ)の3つの酵素が必要なので、そこを阻害する薬があります。
1.「〇」エムトリシタビンは、逆転写酵素阻害剤です。
逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)を阻害するので、RNAからDNAへの合成を阻害して、ウイルス増殖を抑制します。
2.「×」マラビロク(シーエルセントリⓇ)は、CCR5阻害薬です。
HIVが感染するには、宿主細胞膜上にCD4やCCR5といった受容体が必要で、マラビロクは、HIVが細胞内に侵入する際、CCR5受容体との結合を阻害することで、HIVのCD4陽性T細胞内への侵入を阻害します。
3.「〇」ラルテグラビル(アイセントレスⓇ)は、HIVインテグラーゼ阻害剤です。
(※インテグラーゼは、レトロウイルスが逆転写酵素によりDNAに変換したウイルスDNAを、宿主細胞のDNAに組み込むための酵素です)
4.「×」アバカビル(ザイアジェンⓇ)は、生体内で活性代謝物になり、逆転写酵素阻害作用があります。
また、ウイルスDNAに取り込まれ、ウイルスDNAの伸長を停止させることにより、抗ウイルス作用も示します。
5.「×」エファビレンツ(ストックリンⓇ:販売中止)は、逆転写酵素阻害剤です。
問168の解答:1と3