問341
37歳女性。
以前より右乳房のしこりが気になっていたが、今回職場の検診で改めて指摘され来院した。
来院時の身体所見及び検査所見は以下のとおりである。
(身体所見及び検査所見)
身長165 cm、体重56kg、体表面積1.61m2。乳頭からの分泌物は無く、月経周期や全血球計算並びに各種生化学検査値に異常なし。
マンモグラフィで放射状陰影や不整形腫瘤を認め、穿刺吸引細胞診にて浸潤がん細胞を確認した。
また、病理組織検査の結果、エストロゲン受容体陽性、プロゲステロン受容体陰性及びHER2陰性と判定された。
以上の検査結果から、乳房温存摘除術を施行後、化学療法を組合せた内分泌療法を施行することとなった。
(処方)
タモキシフェン錠20mg
1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 28日分
(化学療法レジメン)
薬剤 | Day1 | Day2 | Day3 | |
1 | アプレピタントカプセル | 125mg内服 | 80mg内服 | 80mg内服 |
2 | パロノセトロン塩酸塩注射液
(0.75mg/50 mL) デキサメタゾンリン酸エステル ナトリウム注射液(6.6mg) |
15分かけて
静脈内投与 |
― | ― |
3 | エピルビシン塩酸塩注射用100mg/m2
生理食塩液50mL |
15分かけて
静脈内投与 |
― | ― |
4 | シクロホスファミド水和物注射用500mg/m2 + ブドウ糖注射液5%250mL | 60分かけて
静脈内投与 |
― | ― |
5 | フルオロウラシル500mg/m2 + 生理食塩液 50mL | 5分かけて
静脈内投与 |
― | ― |
6 | デキサメタゾンリン酸エステル ナトリウム注射液6.6mg + 生理食塩液50mL |
15分かけて 静脈内投与 |
― | ― |
3週毎に投与
この患者に対する薬物療法に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.不正出血などの症状を認めた際には直ちに医師や薬剤師に相談するよう患者に指導する。
2.遅発性嘔吐を予防するため、パロノセトロン塩酸塩注射液をプレガバリン口腔内崩壊錠に変更する。
3.心筋障害を予防するため、注射用エピルビシン塩酸塩注射用投与24時間以上前にフィルグラスチム(遺伝子組換え)注射液を投与する。
4.出血性膀胱炎を予防するため、シクロホスファミド水和物注射用投与の当日にメスナを投与する。
5.フルオロウラシル注射液による汎血球減少症を予防するため、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物・L-グルタミン顆粒を投与する。
アプレピタント(イメンドⓇ):ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗型制吐薬
デキサメタゾン(デカドロンⓇ):ステロイド
1.「〇」タモキシフェン(ノルバデックスⓇ):抗エストロゲン薬
タモキシフェンの副作用として、子宮筋腫・子宮内膜症などが知られているので、不正出血など症状を認めた際には、医師や薬剤師に相談するよう患者に指導することは大切です。
ノルバデックスとアリミデックスの使い分け
2.「×」パロノセトロン(アロキシⓇ):5-HT3受容体拮抗型制吐薬
プレガバリン(リリカⓇ):疼痛治療薬(神経障害性疼痛・線維筋痛症)
3.「×」エピルビシン:抗腫瘍性抗生物質(アントラサイクリン系)
アントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質の副作用として、心毒性(心筋障害・心不全)や骨髄抑制があります。心毒性を起こさせないようにする有効な予防薬が無いので、心機能が心毒性により不可逆となる前に、早期発見のため、適宜臨床検査(血液検査、肝機能・腎機能検査、心機能検査など)を行い、異常が認められた場合には、減量・休薬などの処置を行います。
フィルグラスチム(グランⓇ)は、G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤なので、がん化学療法などで、好中球が減少した際に使用されます。
4.「〇」シクロホスファミド(エンドキサンⓇ):抗悪性腫瘍薬(アルキル化薬)
シクロホスファミドの副作用として、出血性膀胱炎や骨髄抑制があります。
シクロホスファミドが生体内でCYPにより代謝されると、活性代謝物とアクロレインが生じます。
アクロレインは、腎臓から尿中に排泄され、膀胱粘膜を障害し出血性膀胱炎を起こします。
メスナ(ウロミテキサンⓇ)は、アクロレインと結合することで、無毒化し、泌尿器系の副作用(出血性膀胱炎など)発現防止に用いられます。
5.「×」フルオロウラシル(5−FUⓇ):抗悪性腫瘍薬(ピリミジン代謝拮抗薬)
フルオロウラシルの副作用として、骨髄抑制・激しい下痢などがあります。
アズレンスルホン酸ナトリウム水和物・L-グルタミン顆粒(マーズレンⓇS配合顆粒):胃炎・消化性潰瘍治療薬