問220-221
66歳男性。C型肝炎の既往歴あり。
今回、肝硬変によると思われる腹水が出現し、肝性脳症の症状もみられたので、消化器内科に入院し治療している。
現在の処方は以下のとおりである。
(処方1)
トルバプタン口腔内崩壊錠7.5mg 1回1錠(1日1錠)
ランソプラゾール口腔内崩壊錠15mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 14日分
(処方2)
スピロノラクトン錠25mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝昼食後 14日分
(処方3)
リーバクト配合経口ゼリー(注1) 1回1個(1日3個)
ラクツロースシロップ65% 1回10mL(1日30mL)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
(処方4)
アミノレバンEN配合散(注2) 50g/包 1回1包(1日1包)
ナルフラフィン塩酸塩口腔内崩壊錠2.5μg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 就寝前 14日分
(注1:分岐鎖アミノ酸製剤、注2:肝不全用経口栄養剤)
問220(実務)
現在の薬物治療について、この患者への説明として誤っているのはどれか。1つ選べ。
1.トルバプタンは、腹部などに溜まった余分な水を尿として排泄する働きがあります。
2.ランソプラゾールは、食道・胃静脈瘤の治療期間中の潰瘍を予防する働きがあります。
3.スピロノラクトンは、肝性脳症を改善する働きがあります。
4.ラクツロースシロップは、腸管内でのアンモニアの発生及び吸収を抑制する働きがあります。
5.ナルフラフィンは、かゆみを改善する働きがあります。
問220の解説
1.「〇」トルバプタン(サムスカⓇ):V2受容体拮抗薬
腎臓の集合管で、バソプレシンによる水の再吸収を阻害し、水を排泄します。
電解質の排泄を伴わない利尿作用を示します。
2.「〇」ランソプラゾール(タケプロンⓇ):プロトンポンプ阻害薬
H+,K+-ATPase(プロトンポンプ)阻害による、胃酸分泌抑制。
3.「×」スピロノラクトン(アルダクトンⓇ):抗アルドステロン性利尿薬
アルドステロン拮抗作用により、水及びNaの排泄を促進し、Kの排泄を抑制します。
肝性脳症を改善する薬としては、分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤、合成2糖類(ラクツロース)、アミノグリコシド系経口抗生物質(カナマイシン)を用います。
4.「〇」ラクツロース(モニラックⓇ):高アンモニア血症治療薬・腸管機能改善薬
人は、ラクツロースを単糖に分解する酵素を持たないので、消化吸収されることなく下部消化管に達します。
下部消化管に達したラクツロースは、腸内細菌によって、分解され有機酸(乳酸、酢酸等)を生じ、腸管内のpHが低下します。
腸管内のpHが低下すると、アンモニアの吸収が抑制されるので、血中のアンモニア濃度が低下します。
リーバクトⓇ:分岐鎖アミノ酸製剤
非代償性肝硬変患者の血中アミノ酸バランスを改善し、アルブミン合成を促進します。
5.「〇」ナルフラフィン(レミッチⓇ):そう痒症改善薬
κ受容体作動薬による、かゆみの抑制。
アミノレバンⓇ:肝不全用経口栄養剤
分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含むアミノ酸製剤で、アミノ酸のバランスを改善することにより、肝硬変による肝性脳症や低アルブミン血症を改善します。
問220の解答:3
問221(物理・化学・生物)
この患者に補充している分岐鎖アミノ酸に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.筋肉ではエネルギー源として利用される。
2.主に肝臓において異化を受ける。
3.該当するアミノ酸は、ロイシン、イソロイシン、プロリンである。
4.すべて糖原性アミノ酸である。
5.肝機能低下時には消費が増し、芳香族アミノ酸に対する比率が低下する。
1.「〇」BCAAは、筋肉ではエネルギー源として利用されます。
筋肉では、芳香族アミノ酸を上手く利用できず、BCAAを利用してエネルギーを作ります。
そのため、肝硬変では、フィッシャー比が低下してきます。
2.「×」BCAAは、主に筋肉において異化を受けます。
3.「×」分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、バリン、ロイシン、イソロイシンです。
4.「×」ケト原性アミノ酸(脂肪酸やケトン体になるアミノ酸):ロイシン・リシン
糖原性ケト原性アミノ酸:イソロイシン・フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン
糖原性アミノ酸(グルコースになるアミノ酸):バリンなど、その他アミノ酸
5.「〇」フィッシャー比のことです。
フィッシャー比=BCAA(分岐鎖アミノ酸)/AAA(芳香族アミノ酸:フェニルアラニン・チロシン)
肝硬変では、筋肉でのBCAAの消費が増えるためフィッシャー比が低下します。(健常成人のフィッシャー比:3~4)