問198-199
87歳男性。畑仕事中に意識がもうろうとなり、A病院に救急搬送された。
現病歴と服用している薬剤の有無は不明であった。
検査の結果、血清ナトリウム値が108mEq/Lと低ナトリウム血症を認めた。
治療のため、3%塩化ナトリウム水溶液での点滴加療を開始することにした。
処方内容や投与方法など治療方針について医師からICU担当薬剤師に確認の依頼があった。
(処方)
生理食塩液(500mL/ボトル)1本
10%塩化ナトリウム注射液(20mL/アンプル)7.5本(150mL)
医師コメント:末梢点滴(自然滴下、30mL/時間)
A病院の医療安全マニュアルには、生理食塩液に対する浸透圧比4を超える注射液を投与する場合は中心静脈より投与することと記載されている。
問198(実務)
ICU担当薬剤師の対応に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
なお、塩化ナトリウムの式量は58.5とし、水溶液中で完全電離しているものとする。
1.処方どおりに調製すれば、3%塩化ナトリウム水溶液となるため、問題なしと判断した。
2.算出された浸透圧比が4を超えていたので、中心静脈からの投与を依頼した。
3.低ナトリウム血症の更なる悪化は、痙れんや昏睡を起こす可能性があると情報提供した。
4.急激な血清ナトリウム値の上昇は、浸透圧性脱髄症候群を起こす可能性があると情報提供した。
5.低ナトリウム血症の原因として、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)も考えられると情報提供した。
問198の解説
1.「〇」処方より、生理食塩液500mLの食塩量は、0.9%×500mL=4.5g
10%塩化ナトリウム注射液(20mL/アンプル)7.5本分の食塩量は、10%×150mL=15g
食塩の総量が、4.5g+15g=19.5g 水の総量が、500mL+150mL=650mLなので
19.5g/650mL=0.03=3%の塩化ナトリウム水溶液となる。
2.「×」今回の問に関しては、浸透圧比なので、
(0.9%)生理食塩液の浸透圧を1とした場合、
3%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧は、単純に3÷0.9≒3.33なので、
浸透圧比は4を超えていない。
補足:浸透圧(Osm/L)は、溶液中の粒子濃度。
生理食塩液の食塩量は、0.9%=0.9g/100mL=9g/L
食塩の分子量は、Na(分子量23)+Cl(分子量35.5)=58.5より、
1mol=58.5gなので、生理食塩液は、9g/58.5mol=0.154mol/L
設問より、NaClが、Na+とCl–のイオンに完全電離すると、
浸透圧は、0.154mol/L×2=0.308Osm/L=308mOsm/L
3.「〇」低Na血症が重症化すると、痙攣・昏睡が生じ、死に至ることもあります。
低Na血症:血清Na濃度が136mEq/L(136mmol/L)未満に低下すること。
4.「〇」浸透圧性脱髄症候群は、低Na血症を急速に改善すると起こることがあります。
低Na血症のとき、脳細胞のNa+を細胞外へ排出し、脳を保護する防御機構が働いています。
これにより、脳細胞が低張に保たれ、脳細胞が大きくなるのを防いでいます。
しかし、この状態で急速に血中にNa+を補充すると、脳細胞から血管側に水が出て、脳細胞が委縮します。これを浸透圧性脱髄症候群と呼びます。
5.「〇」低Na血症なのに、抗利尿ホルモン(バソプレシン)が分泌され、水の再吸収が続いている状態を、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)といいます。
(本来、血清Na濃度が低下すると、バソプレシンの分泌が抑制され、尿の水分量が増えます。)
問198の解答:2