労働基準法及び労働安全衛生法
【問2】労働基準法の労働時間に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
A.労働安全衛生法により事業者に義務付けられている健康診断の実施に要する時間は、労働安全衛生規則第44条の定めによる定期健康診断、同規則第45条の定めによる特定業務事業者の健康診断等その種類にかかわらず、すべて労働時間として取り扱うものとされている。
B.定期路線トラック業者の運転手が、路線運転業務の他、貨物の積込を行うため、小口の貨物が逐次持ち込まれるのを待期する意味でトラック出発時刻の数時間前に出勤を命ぜられている場合、現実に貨物の積込を行う以外の全く労働の提供がない時間は、労働時間と解されていない。
C.労働安全衛生法第59条等に基づく安全衛生教育については、所定労働時間内に行うことが原則とされているが、使用者が自由意思によって行う教育であって、労働者が使用者の実施する教育に参加することについて就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加とされているものについても、労働者の技術水準向上のための教育の場合は所定労働時間内に行うことが原則であり、当該教育が所定労働時間外に行われるときは、当該時間は時間外労働時間として取り扱うこととされている。
D.事業場に火災が発生した場合、既に帰宅している所属労働者が任意に事業場に出勤し消火作業に従事した場合は、一般に労働時間としないと解されている。
E.警備員が実作業に従事しない仮眠時間について、当該警備員が労働契約に基づき仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに対応することが義務付けられており、そのような対応をすることが皆無に等しいなど実質的に上記義務付けがされていないと認めることができるような事情が存しないなどの事実関係の下においては、実作業に従事していない時間も含め全体として警備員が使用者の指揮命令下に置かれているものであり、労働基準法第32条の労働時間に当たるとするのが、最高裁判所の判例である。
労働基準法及び労働安全衛生法【問2】の解説
A.「×」健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払い
一般健康診断 | 受診のために要した時間については、当然に事業者が負担するべきものではなく、労使協議を行い定めるべきではあるが、その受診に要した時間の賃金については、事業者が支払うことが望ましい。 |
特殊健康診断 | 事業の遂行のために、実施しなければならない健康診断のため、所定労働時間内に行なわれるのを原則とする。 また、特殊健康診断の実施に要する時間は、労働時間と解されるので、時間外に行なわれた場合には、割増賃金を支払わなければならない。 |
(昭和47年9月18日 基発第602号 第66条関係)
B.「×」労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと。
使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たります。
労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます。
例えば、以下のような時間は、労働時間に該当します。
①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
(平成12年3月9日最高裁第一小法廷判決 三菱重工長崎造船所事件)
C.「×」安全衛生教育は、労働者の労働災害を防止するため、事業者の責任において実施しなければならないので、所定労働時間内に行なうことを原則としています。
そのため、安全衛生教育の実施に要する時間については、労働時間と解されるので、法定時間外に行なわれた場合には、割増賃金を支払われなければなりません。:(昭和47年9月18日 基発第602号 第59条関係)
就業時間外の教育訓練は、労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく、自由参加のものであれば、時間外労働にはなりません。:(昭和26年1月20日付け基収第2875号、平成11年3月31日基発第168号)
D.「×」災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働について。
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合には、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要な限度において労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。:労働基準法(第33条)
実際に火災が発生した場合、使用者が所定労働時間を終え帰宅している所属労働者を招集した場合は労働時間に該当(昭和23.10.23基収 第3141号)
E.「〇」労働者が実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものであって、労働時間に該当する。
泊り勤務の間に設定されている仮眠時間は、労働者が労働契約に基づき、仮眠室における待機と警報や電話に対して、対応することが義務付けられている場合、そのような対応をすることが、皆無に等しくなければ、実作業に従事していない時間(仮眠時間)も含め、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているものであり、労働時間に該当するとされています。(大星ビル管理事件 最高裁平成14年2月28日)
労働基準法及び労働安全衛生法【問2】の解答:E
労働時間まとめ
労働時間 | 労働時間に含まれない |
休憩中に命じれ来客当番をする時間 (=手待時間) |
終業規則上の制裁などの不利益取扱による出席の強制がなく自由参加の教育訓練の実施時間 |
特殊健康診断や安全衛生教育の実施時間 | 一般健康診断の実施時間 |
使用者から参加を命じられた会議の時間 | |
貨物自動車の到着まで待機している時間や、トラックで運転しない者が助手席で休息や仮眠をとっている時間(=手待時間) | |
事業場に火災が発生し、任意に出勤し消火活動した時間 | |
巡回監視労働者の不活動仮眠時間 | |
訪問介護事業の労働者が、事業場や利用者宅を移動する時間 |