問264-265-266-267(実務/薬理/実務/薬剤)
39歳、閉経前女性。身長155cm、体重43kg、体表面積1.38m2。
右乳房に腫瘤を触知し、乳腺外科を受診、針生検の結果、T1N1M0のStageⅡAの右乳がんと診断され、入院した。
右乳房部分切除術、センチネルリンパ節生検及び腋窩リンパ節郭清を実施した。
術後の検査所見は以下のとおりであった。
(検査所見)
リンパ節転移6個、エストロゲン受容体(ER)陽性、プロゲステロン受容体(PgR)陽性、HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)陰性、AST 20IU/L、ALT 17IU/L、血清クレアチニン 0.88mg/dL、BUN 18mg/dL、白血球 5,600/μL、赤血球368×104/μL、Hb 11.2g/dL、血小板28×104/μL、好中球 4,500/μL
今回この患者に以下の術後薬物療法を施行することとなった。
(処方1)
A錠20mg 1回1錠(1日1錠)
1 日1回 朝食後 14日分
(処方2)
リュープロレリン酢酸塩注射用キット3.75mg 1キット
1回 3.75mg 4週間ごとに1回皮下注射
問264(実務)
この患者の術後薬物療法に用いられる薬物Aとして、適切なのはどれか。1つ選べ。
1.アナストロゾール
2.エキセメスタン
3.エンザルタミド
4.タモキシフェン
5.ラパチニブ
問264の解説
TNM分類
T(tumor):腫瘍の大きさや浸潤
N(lymph nodes):所属リンパ節への転移
M(metastasis):遠隔転移の有無
1.「×」アナストロゾール(アリミデックスⓇ):アロマターゼ阻害薬
アロマターゼを阻害することにより、アンドロゲンからエストロゲンへの産生を阻害するため、閉経後乳癌治療に用います。
2.「×」エキセメスタン(アロマシンⓇ):アロマターゼ阻害薬
アロマターゼを阻害することにより、アンドロゲンからエストロゲンへの産生を阻害するため、閉経後乳癌治療に用います。
3.「×」エンザルタミド(イクスタンジⓇ):アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害薬
アンドロゲンが、アンドロゲン受容体に結合するのを阻害したり、アンドロゲンと結合したアンドロゲン受容体が核内に移行しないようにしたりするので、前立腺がん治療に用います。
(※前立腺がんは、アンドロゲンがアンドロゲン受容体と結合すると、がん細胞が増殖します。)
4.「〇」タモキシフェン(ノルバデックスⓇ):エストロゲン受容体拮抗薬
エストロゲンがエストロゲン受容体に結合するのを阻害するので、乳癌治療に用います。
設問の患者さんは、閉経前女性・エストロゲン受容体 陽性・HER2陰性のため、選択肢の中ではタモキシフェンを選びます。
5.「×」ラパチニブ(タイケルブⓇ):EGFR・HER2チロシンキナーゼ阻害薬
上皮増殖因子受容体(EGFR)・ヒト上皮成長因子受容体2型(HER2)のチロシンキナーゼを阻害することによって、増殖シグナル伝達が阻害され、がん細胞の増殖抑制・アポトーシスを誘導し、HER2が過剰発現した手術不能又は再発乳癌治療に用います。
問264の解答:4
問265(薬理)
処方1又は処方2の薬物の抗がん作用の機序として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.視床下部のERを刺激して、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑制する。
2.下垂体のGnRH受容体のダウンレギュレーションを起こすことで、ゴナドトロピンの分泌を抑制する。
3.脂肪組織において、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの生成を抑制する。
4.乳がん組織のERにおいて、エストロゲンに拮抗する。
5.HER2に結合して、乳がん細胞の増殖を抑制する。
問265の解説
1.「×」クロミフェン(クロミッドⓇ)は、抗エストロゲン薬で、視床下部のエストロゲン受容体(ER)で、エストロゲンと拮抗するので、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑制します。
2.「〇」処方2のリュープロレリン(リュープリンⓇ)に関する記述です。
リュープロレリン(リュープリンⓇ)は、LH-RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)アゴニスト製剤です。
リュープロレリンの急性効果として、下垂体前葉からゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)が放出されるので、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)が増えますが、負のフィードバック効果(慢性効果)により、ダウンレギュレーションがおき、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の分泌が抑制されるので、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)が減り、閉経前乳癌に用いられます。
3.「×」アナストロゾール(アリミデックスⓇ)・エキセメスタン(アロマシンⓇ)に関する記述です。
4.「〇」処方1のタモキシフェン(ノルバデックスⓇ)に関する記述です。
5.「×」トラスツズマブ(ハーセプチンⓇ)に関する記述です。
トラスツズマブは、抗HER2モノクローナル抗体です。
HER2受容体に結合した後、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)や単球が、抗体依存性の細胞傷害作用により抗腫瘍効果を示します。
※HER2:Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2(ヒト上皮増殖因子受容体 2 型)
問265の解答:2と4
問266(実務)
この患者への薬物治療に関して、病棟の症例検討カンファレンスに参加している研修医向けに発表して欲しいと病棟担当薬剤師へ依頼があった。
カンファレンスにおける薬剤師の発表内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.処方1の薬剤の服用により子宮体がん(子宮内膜がん)のリスクが高まることがあり、本剤投与中及び投与終了後の患者は定期的に検査を行うことが望ましい。
2.処方2の薬剤の投与により、うつ状態が現れることがあり、症状悪化時にはSSRI 等の抗うつ薬の追加処方を検討する。
3.処方2の薬剤の投与により、骨疼痛の一過性増悪がみられることがあり、このような症状が現れた場合には、ビスホスホネート製剤の投与を行う。
4.今回の薬物治療に際して患者が妊娠していないことを確認し、また治療期間中は低用量経口避妊薬による避妊法を用いる。
5.今回の薬物治療により骨密度の低下がみられることがあるので、長期にわたり投与する場合は骨密度の検査を実施する。
問266の解説
1.「〇」処方1のタモキシフェン(ノルバデックスⓇ)の服用により、子宮体がん・子宮内膜症のリスクが高まることが知られているので、定期的な検査や、不正出血などの異常症状がみられたら、医療関係者に相談するよう患者さんに伝えます。
2.「△」処方2のリュープロレリン(リュープリンⓇ)の作用により、エストロゲンが低下するので、更年期障害様のうつ状態があらわれることがあります。
そのため、うつ症状が現れたら、非薬物療法(生活習慣の改善・心理療法・ストレス管理)・薬物療法の見直し・抗うつ薬(漢方も含む)の検討をします。
抗うつ薬(漢方も含む)の追加処方を検討する際、処方1のタモキシフェンは、CYP2D6・CYP3A4で代謝されるため、SSRI(フルボキサミン(ルボックスⓇ・デプロメールⓇ)・パロキセチン(パキシルⓇ)・エスシタロプラム(レクサプロⓇ))やSNRI(デュロキセチン(サインバルタⓇ)・ベンラファキシン(イフェクサーⓇ))の代謝もCYP2D6が関与するため、併用する際は、注意が必要です。
3.「×」処方2のリュープロレリン(リュープリンⓇ)投与初期に、下垂体-性腺刺激作用のため、血中テストステロン濃度が一過性に上昇し、骨疼痛が増悪することがあるが、これは通常一過性なので、リュープロレリンの継続投与により、軽快・消失します。また、抗アンドロゲン薬を投与初期に短期併用することもあります。
4.「×」タモキシフェン(ノルバデックスⓇ)・リュープロレリン(リュープリンⓇ)ともに、流産の可能性が高まるため、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与禁忌です。そのため、投与前に、患者が妊娠していないことを確認する必要があります。また、低用量経口避妊薬(ピル)を使用してしまうと、リュープロレリンの作用が減弱するため、治療期間中は非ホルモン性の避妊をする必要があります。
5.「〇」処方2のリュープロレリン(リュープリンⓇ)は、作用機序的にエストロゲンが減少するので、長期間、投与する場合、骨密度の低下が考えられるので、定期的な骨密度の検査を実施します。
問266の解答:1と5
問267(薬剤)
処方2の製剤に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.乳酸・グリコール酸共重合体が使用されている。
2.高分子で薬物結晶をコーティングしている。
3.マトリックスを形成している高分子が分解することにより薬物を放出する。
4.自己乳化型マイクロエマルション製剤である。
5.粉末部の薬剤を液体部の溶液で溶解して使用する製剤である。
問267の解説
1.「〇」処方2の製剤は、乳酸・グリコール酸共重合体(生体分解性高分子)のマイクロカプセルの中に、リュープロレリンを封入した製剤です。
2.「×」
3.「〇」処方2の製剤は、マトリックスを形成している高分子が、徐々に分解され有効成分(リュープロレリン)が放出される持続性注射剤です。
4.「×」
5.「×」
問267の解答:1と3