問296-297
71歳女性。身長152cm、体重48kg。12年前に2型糖尿病と診断されインスリン強化療法を受けた。最近は病状が安定し、経口薬でコントロールされている。以前から血圧が低く、近年は立ちくらみもあり、不定愁訴も多い。最近1年間は、月1回通院して、処方1の薬剤を服用していた。前回(1ヶ月前)の検査値を下に示す。
(処方1)
シタグリプチンリン酸塩水和物錠25mg 1回1錠(1日1錠)
フロセミド錠20mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 30日分
(身体所見及び検査値:1ヶ月前の前回受診時)
血圧 90/64mmHg、心拍70拍/分、赤血球470×104/μL、白血球4,800/μL、
血小板28×104/μL、Hb 12.1g/dL、K 3.7mEq/L、AST 26IU/L、
ALT 40IU/L、γ-GTP 25IU/L、総ビリルビン 0.9mg/dL、
CK(クレアチンキナーゼ)23IU/L(基準値(女性)20~150IU/L)、
血清アルブミン3.5g/dL、血清クレアチニン1.1mg/dL、
eGFR 38.0mL/min/1.73m2、血糖115mg/dL、HbA₁c 6.7%、
BNP12.0pg/mL(基準値<18.4pg/mL)
尿糖(+)、尿蛋白(+)、尿中アルブミン/クレアチニン比150mg/gCr、
尿中ケトン体(-)
下肢の浮腫(±)、両側アキレス腱反射低下
問296(病態・薬物治療)
この患者の状態について、あてはまるのはどれか。2つ選べ。
1.ネフローゼ症候群
2.慢性腎臓病(CKD)
3.慢性心不全
4.糖尿病性神経障害
5.肝硬変
問296の解説
1.「×」設問より、血清アルブミン3.5g/dLとあるので、ネフローゼ症候群を除外します。
ネフローゼ症候群とは、腎臓の糸球体が障害され、尿中にタンパク質が大量に漏れ出て、低タンパク血漿となり浮腫が起こる疾患のことです。
『ネフローゼ症候群の診断基準』
①尿蛋白3.5g/日以上
②血清アルブミン値が3.0g/dL以下
③浮腫
④脂質異常症(高LDLコレステロール血症)
2.「〇」設問より、eGFR 38.0mL/min/1.73m2とあるので、慢性腎臓病(CKD)を疑います。
慢性腎臓病(CKD)とは、何らかの腎障害が3ヶ月以上持続すること。
『慢性腎臓病(CKD)の診断基準』
①糸球体濾過量(GFR)が、60mL/分/1.73m2未満
②尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかであり、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)
①・②の片方または両方が3か月以上持続することで診断します。
3.「×」設問より、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)12.0pg/mLとあるので、慢性心不全を除外します。
4.「〇」設問の患者は、2型糖尿病で、HbA₁c 6.7%、尿糖(+)、両側アキレス腱反射低下とあるので、糖尿病性神経障害を疑います。
5.「×」設問より、AST 26IU/L(基準値:7~38)、ALT 40IU/L(基準値:4~44)、γ-GTP 25IU/L(基準値 男性:80以下・女性:30以下)、総ビリルビン 0.9mg/dL(基準値:0.4〜1.5)とあるので、肝機能に問題はなさそうなので、肝硬変を除外します。
問296の解答:2と4
問297(実務)
前回の受診時に「夜中に足がつる」、「おなかの調子が悪い」と訴えがあり処方2が追加された。
(処方2)
芍薬甘草湯エキス顆粒 2.5g/包 1回1包(1日3包)
酪酸菌(宮入菌)製剤錠 20mg 1回2錠(1日6錠)
1日3回 朝昼夕食後 30日分
今回の受診時に処方3が追加された。
(処方3)
塩化カリウム徐放錠600mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 30日分
患者から「その後、次第に筋肉痛のような痛みが持続するようになった」と訴えがあり、薬剤師は、今回の受診時の検査値を前回と比較した。
項目 | 前回(1ヶ月前) | 今回 |
血圧(mmHg) | 90/64 | 130/86 |
AST(IU/L) | 26 | 143 |
ALT(IU/L) | 40 | 82 |
総ビリルビン(mg/dL) | 0.9 | 1.1 |
血清クレアチニン(mg/dL) | 1.10 | 1.08 |
eGFR(mL/min/1.73m2) | 38.0 | 38.8 |
クレアチンキナーゼ(CK)(IU/L) | 23 | 836 |
K(mEq/L) | 3.7 | 2.1 |
HbA₁c(%) | 6.7 | 6.6 |
医師に処方変更を提案する内容として、適切なのはどれか。1つ選べ。
1.酪酸菌(宮入菌)製剤を中止する。
2.芍薬甘草湯を中止する。
3.シタグリプチンリン酸塩水和物を減量する。
4.フロセミドを増量する。
5.インスリン自己注射を追加する。
1.「×」酪酸菌(宮入菌)製剤(ミヤBM®)
設問より、「おなかの調子が悪い」とあるので、酪酸菌(宮入菌)製剤は継続服用した方がよいと考えます。
2.「〇」設問より、「夜中に足がつる」とあり、芍薬甘草湯が処方され、K値が3.7→2.1に減少、血圧が90/64→130/86に上昇しているため、芍薬甘草湯に含まれている甘草(グリチルリチン酸)による偽アルドステロン症を疑います。
(※偽アルドステロン症は、低K血症や高血圧など、原発性アルドステロン症と同様の症状を呈するにも関わらず、血中レニンは低値を示し、アルドステロンは高値を示しません。)
また、クレアチンキナーゼ(CK)が、23→836(基準値 :男性62~287・女性45~163)に急上昇し、筋肉痛のような痛みも訴えているので、横紋筋融解症も疑います。
3.「×」シタグリプチン(ジャヌビア®・グラクティブ®):DPP-4阻害薬
設問より、HbA₁cは、6.7→6.6(6.5以上:糖尿病型)のため、継続して服用した方がよいと考えます。
4.「×」フロセミド(ラシックス®):ループ利尿薬
設問より、下肢の浮腫(±)、K値が3.7→2.1(基準値:3.5~5.0)とあるので、フロセミド(ループ利尿薬)を増量すると、Na+‐K+‐2Cl–共輸送を抑制し、カリウム排泄が促進されるため、低カリウム血症がさらに悪化する可能性があります。
処方3で、低カリウム血症の治療のため、塩化カリウム徐放錠を追加しています。
5.「×」設問より、経口薬(シタグリプチン)でコントロールされているとあるので、インスリン自己注射を追加しなくてもよいと考えます。