問288-289
32歳女性。身長166cm、体重54.0kg、体表面積1.6m2。急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)と診断され、入院の上でトレチノイン(内服)、イダルビシン(静注)、シタラビン(静注)による寛解導入療法を施行することになった。入院時の持参薬、検査結果及び既往歴は次のとおりである。
(持参薬)
クロピドグレル錠75mg 1回1錠(1日1錠)
ラベプラゾールNa錠10mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後
(検査所見)
白血球 3,600/μL、好中球 1,000/μL、リンパ球 1,300/μL、骨髄球960/μL、
単球 340/μL、赤血球 298×104/μL、血小板 2.7×104/μL、Hb 8.7g/dL、
CRP 2.3mg/dL、血清アルブミン 3.6g/dL、総コレステロール 170mg/dL、
LDL-C 100mg/dL、TG(トリグリセリド)100mg/dL、BUN 18mg/dL、
血清クレアチニン 0.8mg/dL、クレアチニンクリアランス 86mL/min
(既往歴)
26歳時に逆流性食道炎、30歳時に軽度脳梗塞(軽快)
問288(実務)
化学療法の開始にあたり病棟担当薬剤師が確認すべき内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.ラベプラゾールNa錠の中止
2.クロピドグレル錠の中止
3.ベタメタゾンリン酸エステルNa点眼液の追加
4.炭酸水素ナトリウム錠の追加
5.フィルグラスチム(遺伝子組換え)注射液の追加
急性前骨髄球性白血病(APL)の解説
急性前骨髄球性白血病(APL)は、急性骨髄性白血病の1種で、前骨髄球が、がん化したもの。
急性前骨髄球性白血病(APL)は、15番染色体と17番染色体が転座した染色体異常で、前骨髄球が好中球へ分化できなくなり、前骨髄球が異常に増加する疾患です。
臨床症状として、血小板減少による鼻血や歯茎からの出血、赤血球減少による貧血・息切れ・動悸、白血球減少による感染症が見られます。
急性前骨髄球性白血病(APL)の寛解導入療法では、トレチノイン(ATRA:all-trans retinoic acid)に、治療前白血球数やAPL細胞数に応じて化学療法(イダルビシン・シタラビン)を併用し、凝固異常対策・貧血や感染症対策も行います。
問288の解説
トレチノイン(ベサノイド®)は、前骨髄球の分化を促す作用。(好中球への分化を促す)
イダルビシン(イダマイシン®):アントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質で、トポイソメラーゼⅡ阻害し抗腫瘍効果を示します。副作用として骨髄抑制。
シタラビン(キロサイド®):ピリミジン代謝拮抗薬で、DNA依存性DNAポリメラーゼやRNA依存性DNAポリメラーゼを阻害し、DNA合成を阻害するため、抗腫瘍効果を示す。副作用として骨髄抑制。
1.「×」ラベプラゾール(パリエット®):プロトンポンプ阻害薬
設問に、26歳時に逆流性食道炎とあるので、ラベプラゾールを服用していると考えられる。
2.「〇」クロピドグレル(プラビックス®):抗血小板薬
設問より、血小板の値が2.7×104/μLで、基準値(14.0×104〜34.0×104)より低い。さらに今後、抗悪性腫瘍薬を投与予定で、副作用による骨髄抑制が考えられ、血小板数がさらに減少する可能性があるため、クロピドグレルの中止を検討する。
3.「〇」ベタメタゾン(リンデロン®)
シタラビンを投与後6~12時間後に、シタラビン症候群と言われる副作用が出ることがあるが、副腎皮質ホルモン製剤を投与することで、予防及び軽減を考える。
(※シタラビン症候群:発熱、筋肉痛、骨痛、斑状丘疹性皮疹、胸痛、結膜炎及び倦怠感のこと)
4.「×」炭酸水素ナトリウムは、抗がん剤の効果により腫瘍細胞が急速に死滅した際に、代謝性アシドーシス・高尿酸血症など(腫瘍崩壊症候群)が起こった際に考えますが、現状は追加しなくてもよい。
5.「×」フィルグラスチム(グラン®):顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)
フィルグラスチムは、好中球の分化・増殖を促進するが、設問のような、急性前骨髄球性白血病(APL)患者に用いると、芽球の増加を促進させることがあるので使用しない。
問288の解答:2と3
問289(病態・薬物治療)
今回の治療開始後10日目より、体重増加、発熱、及び呼吸困難が認められた。
その際の対処として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1.寛解導入療法薬を休薬する。
2.メチルプレドニゾロンを投与する。
3.シクロホスファミドを投与する。
4.メトトレキサートを投与する。
5.イマチニブを投与する。
APL分化症候群(レチノイン酸症候群)を考える。
トレチノインにより分化した好中球が、肺や腎臓に浸潤して、炎症性サイトカインを放出することで、発熱・呼吸困難・体重増加・低血圧・胸水・腎不全などを呈することがある。
APL分化症候群(レチノイン酸症候群)に対しては、副腎皮質ホルモンが著効し、重篤ならトレチノインを休薬する。
1.「〇」寛解導入療法薬の休薬を検討する。
2.「〇」メチルプレドニゾロン(メドロール)の副腎皮質ホルモンの投与を検討する。
3.「×」シクロホスファミド(エンドキサン):アルキル化薬
4.「×」メトトレキサート(メソトレキセート):葉酸代謝拮抗薬
5.「×」イマチニブ(グリベック):チロシンキナーゼ阻害薬