問220・221(生物・実務)
89歳女性。体重40kg。
高血圧症及び慢性心不全に対して処方1で薬物治療を行っている。
独居で入院拒否があるため、医師と薬剤師、看護師が訪問している。
最近、下腿浮腫が出現し、労作時の息苦しさや疲労感が強くなってきたため、血液検査を実施したところ、脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)値が3ケ月前の450pg/mLから下記の検査値になっていた。
(処方1)
エナラプリルマレイン酸塩錠5mg 1回1錠(1日1錠)
ビソプロロールフマル酸塩錠0.625mg 1回1錠(1日1錠)
アゾセミド錠60mg 1回1錠(1日1錠)
スピロノラクトン錠50mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 14日分
(検査値)
Na 141mEq/L、K 4.8mEq/L、eGFR 54mL/min/1.73m2、NT-proBNP 1,180pg/mL
※ なお、NT-proBNP値900pg/mL以上は治療対象となる心不全の可能性が高い。
その後、訪問医は継続中だった処方1のうち、エナラプリルのみを中止して、新たに処方2を追加した。
(処方2)
サクビトリルバルサルタンNa水和物錠50mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 7日分
問220(生物)
下図は、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の生成と代謝の過程を示している。
BNPは、mRNAからBNP前駆体タンパク質として翻訳された後、切断されて血中に分泌される。
サクビトリルが阻害する酵素ネプリライシンの作用部位は、切断1~3のいずれかである。
以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
109-220
1.BNPとNT-proBNPは、主に心室から分泌される。
2.NT-proBNPは、図のペプチドAである。
3.BNPは、NT-proBNPよりも血液中での安定性が高い。
4.ネプリライシンの作用部位は、切断3である。
5.NT-proBNPは、BNPと同様に腎臓に作用してNa+の尿中への排出を促進する。
問220の解説
1.「〇」BNP(脳性Na利尿ペプチド)とNT-proBNP(脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)は、心筋にストレスがかかると、主に心室から分泌されます。(心房からは10%程度分泌)
2.「×」NT-proBNPは、図のペプチドBです。
心筋にストレスがかかると、BNP前駆体タンパク質(Pre-pro-BNP)が産生されます。
BNP前駆体タンパク質が、タンパク分解酵素によって切断されると、Pro-BNPが産生されます。
Pro-BNPが、タンパク分解酵素によって切断されると、NT-ProBNP(生理活性なし・半減期120分)とBNP(生理活性あり・半減期20分)が産生されます。
3.「×」BNPは、NT-proBNPよりも血液中での安定性が低いです。
4.「〇」BNPは、ネプリライシン(タンパク分解酵素)によって分解されます。
BNPには、利尿・血管拡張・レニン-アルドステロン分泌抑制・心筋の肥大抑制作用があり、心臓保護作用があります。
サクビトリルは、ネプリライシン阻害作用により、BNPの分解を抑制するので、BNPが上昇し、心不全のモニタリングに、使いづらくなることがあります。
ネプリライシン(タンパク分解酵素)は、アルツハイマーの原因となるβ-アミロイドを分解する働きがあります。(※現時点では、ネプリライシン阻害作用のあるARNIを服用しても、β-アミロイドの蓄積による認知障害のリスクを高めるという証拠はないとされています。)
マウスの研究ですが、高インスリン血性低血糖症治療薬(ジアゾキシドⓇ)が、ネプリライシンの活性が高め、β-アミロイドの蓄積を減少させ、認知機能を回復したという報告があります。
5.「×」2を参照
エナラプリル(レニベースⓇ):アンジオテンシン変換酵素阻害薬
ビソプロロール(メインテートⓇ):β1受容体遮断薬
アゾセミド(ダイアートⓇ):ループ利尿薬
スピロノラクトン(アルダクトンⓇ):抗アルドステロン性利尿薬(K保持性利尿薬)
問220の解答:1と4
問221(実務)
処方2の薬剤の服用によって生じる可能性が高いのはどれか。2つ選べ。
1.血中TSH値の上昇
2.高カリウム血症
3.血圧上昇
4.血中NT-proBNP値の上昇
5.脱水症状
問221の解説
サクビトリルバルサルタン(エンレストⓇ):アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)
サクビトリルバルサルタンは、サクビトリルとバルサルタンに解離します。
バルサルタンは、アンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体阻害作用
サクビトリルは、ネプリライシン阻害作用
1.「×」
2.「〇」バルサルタンのAT1受容体遮断作用と、サクビトリルのネプリライシン阻害作用により、アルドステロンの分泌が抑制されるため、高カリウム血症になりやすくなります。
3.「×」
4.「×」
5.「〇」サクビトリルのネプリライシン阻害により、BNPが分解されにくくなるので、利尿作用による脱水がおこりやすくなります。
問221の解答: 2と5