問330(実務)
28歳女性。体重50kg。
5年前に双極性障害と診断され、近隣の精神科通院加療中であった。
炭酸リチウム 800mg(21.6mEq)/日の内服でコントロール良好であった
(血清リチウム濃度:0.8~1.0mEq/L)が、夫と口論になりその後希死念慮を認めた。
翌朝午前5時ごろに炭酸リチウム錠200mg を100錠過量服用した。
その後、夫からの通報で救急搬送され、直ちに経鼻胃管による胃洗浄等の処置を施したが心電図で QT延長を認めたことから、リチウム中毒を疑い、入院の上で同日 16時より持続的血液透析(CHD)を開始した。
来院時に1.6mEq/L であった血清 リチウム濃度はCHD開始時には3.6mEq/L に上昇していた。
その後、20時、22時、翌日12時に採血と心電図検査を実施した。
患者の経過を図に示す。
(来院時所見等)
血圧 75/45mmHg、脈拍 92拍/分、
QTc(Bazett 補正式)0.455秒(基準値:0.36秒以上0.44秒未満)、
血清リチウム濃度 1.6mEq/L(有効治療域:0.6~1.2mEq/L)、
血清クレアチニン 0.75mg/dL、Na 140mEq/L、K 3.8mEq/L
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担当薬剤師のこの患者に対するアセスメント等として適切なのはどれか。2つ選べ。
ただし、CHD 離脱によって炭酸リチウムの全身クリアランスは半分になること、炭酸リチウムの分布容積は CHD によらず 0.84L/kg とする。
1.服用した炭酸リチウムの半分に相当する量が吸収されていた。
2.腸に達した炭酸リチウム除去のための薬用炭投与は無効である。
3.CHD の離脱時には心電図は正常化している。
4.リチウムの体内動態は非線形性を特徴とする。
5.第3病日12時の血清リチウム濃度は0.5mEq/L未満と推定される。
問330の解説
炭酸リチウム(リーマスⓇ):躁病治療薬
TDM対象薬剤で、トラフ値(最低血中薬物濃度)で評価します。
リチウム中毒では、消化器症状(嘔吐・食欲低下)・精神症状(傾眠・錯乱)・循環器症状(T波平坦化・QTc(補正QT時間)延長・徐脈)・腎不全などがみられます。
1.「×」設問の患者は、体重50kgなので、炭酸リチウムの分布容積は、0.84L/kg×50kg=42L
図より、CHDの開始時の血清リチウム濃度が、3.6mEq/Lなので、体内移行量=血中濃度×分布容積=3.6mEq/L×42L=151.2mEq
設問より、炭酸リチウム800mgで21.6mEqとあるので、151.2mEq÷21.6mEq=7
よって、炭酸リチウム5600mg(800mg×7)相当が体内に移行したと考えます。
服用した炭酸リチウム錠は、200mgを100錠なので、200mg×100=20000mg
5600÷20000=0.28なので、服用した炭酸リチウムの1/3程度吸収されたと考えます。
2.「〇」活性炭は、分子量100~5000程度の物質を吸着するが、構造的に、金属(Liなど)・アルコール・イオン(シアン化物)などは吸着できない。
リチウムの分子量は小さく、蛋白結合率が低いため、リチウム中毒では、血液透析を行います。(リチウムに対する拮抗薬は存在しない)
3.「×」図より、CHD離脱時のQTc時間は、0.444秒(基準値0.36秒以上・0.44秒未満)となっているので、心電図は、正常化していないと考えます。
4.「×」リチウムは、線形性。
非線形性薬物の代表は、フェニトイン・バルプロ酸Naを覚えておきます。
5.「〇」図より、第1病日の16:00の血清リチウム濃度は、3.6mEq/L
第2病日の12:00の血清リチウム濃度は、0.96mEq/Lなので、CHDの実施時の血清リチウム濃度は、20時間で約1/4となっているので、半減期が約10時間。
また、設問より、CHD離脱によって炭酸リチウムの全身クリアランスは半分になること、炭酸リチウムの分布容積はCHDによらず 0.84L/kgとあるので、CHD離脱時の血清リチウムの半減期は、約20時間です。
図より、第2病日の12:00にCHDを離脱した際の、血清リチウム濃度が0.96mEq/L
第3病日の12:00は、24時間後なので、血清リチウム濃度が0.96mEq/Lの約半分以下となっているので、0.5mEq/L未満と推定されます。
問330の解答:2と5